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2022-01-23 00:00
日本のワクチン開発接種事業と安全保障(2)
濱田 寛子
医師
筆者は、この2年間、子宮頸がんの一部を予防できるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨再開の為奔走してきた。そこで感じたワクチンと政治について述べてみたい。HPVワクチンは2009年から日本で導入され、2013年4月に定期接種化したが、有害事象のマスコミ報道によりわずか2か月で積極的勧奨が差し控えられた。そこから様々な疫学的調査により2015年にはほぼ有効性、安全性についてのエビデンスは揃っていた。厚生労働省研究班(祖父江班)の疫学研究にて、マスコミで騒がれている「機能性身体症状」はワクチンを打たなくとも一定数存在することが報告され、名古屋スタデイの中間報告にてワクチン接種と非接種群に機能性身体症状の差がないことが報告され、2018年には論文化されている。2020年には海外大規模調査にて子宮頸がんが0.12にまで予防できることが証明された。また、70%以上の対象者に接種が進むと、未接種の女性や男性もHPV感染とそれによる子宮膣部異形成や肛門性器疣贅(イボ)に対する集団免疫効果も報告されている。このような日本だけのHPVワクチン忌避はWHOから名指しで批判されるまでに至っていた。
この8年間、積極的勧奨を阻んだものは、反ワクチン派が多岐にわたる活動をするプロ集団であったこと、有力政治家への働きかけがある一方で官僚が動かなかったこと、訴訟が起きていることが挙げられる。また、反ワクチン派と結びついた医師達がHPVワクチンがあたかも日本人のみ副作用が起こるかのような表現をしていた。そこにメスを入れたのが「10万個の子宮」を記した村中璃子氏である。衝撃を受けた筆者は、今までとは違うルートを使いながらHPVワクチン積極的勧奨を働きかけた。やったことのない政治家への働きかけをし、都度要望書を取りまとめ提出した。特に医師会の認証は重要とされた。しかし、一番動いたと感じたのは政権の交代に際してである。2020年10月にまずHPVワクチンの接種対象者への個別通知が全国で再開されたのは、安倍政権から菅政権へ移行した時である。2021年10月に積極的勧奨の再開が決定されたときは、菅政権から岸田政権に移行した時である。官僚は保身せざるを得ないのである。
「機能性身体症状」を呈した患者達には、予防接種法、PMDA法による救済は粛々と進んでいたことがわかっている。何も官僚たちが動かなかったわけではない。静かに水面下で動いていたのだとは公表によって知った。今の法律の後ろ盾がある以上、もっと政治家たちはワクチン開発と接種事業に大きく舵を切って欲しい。
この要望書の取りまとめの時に一番感じたのは、地位ある人々の度胸と根性のなさである。地方といえども「長」と名の付く人々が、マスコミや反ワクチン派を怖がり、動きを止めようとする問題に2年間対峙し説得してきた。エビデンスに真摯に向き合うことはもとより、政策を推し進めるのは政治家である。政策を練っていくのには時間をかけていい時とスピードを要する時がある。そこを見極めるのが政治家に期待される政治手腕である。ワクチン開発をわが国でスピードを持って進められるように、法整備と官民一体の開発認証制度を一刻も早く進めて頂きたい。もちろん、弱腰や見て見ぬふりの政治はまっぴらである。
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