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2022-03-10 00:00
プーチン大統領の目論見
古閑 比斗志
医師
CIA長官が米国議会で述べていたが、プーチン大統領の意志はかたい。ウクライナ侵攻を止める気はないであろう。なぜ、彼がこれほどにまで強硬な姿勢でウクライナを侵略し続けるのかについては専門家の間でも諸説あり、様々な分析が行われているようだ。多数説は、その動機付けを彼の偏ったロシア史・近現代史観に求めているようだが、筆者はイデオロギーの視座から説いてみたい。彼はKGBの出身である。かつてソ連を導いたゴルバチョフは、計画経済の行き詰まりや体制の制度疲労などによりソ連の継続を諦めざるを得なかったが、ロシア連邦となった今もソ連時代への郷愁を感じるロシア国民は多く、マルクス・レーニン主義(共産主義)という基本的な考え方は息づいているといえよう。冷戦時代はイデオロギーの時代であった。欧米はソ連が崩壊したときにソ連の核やミサイル技術が新興国に流れないようにした。そして、NATOは拡大されていった。ユーゴスラビアは崩壊し、スロベニア・クロアチア・セルビア・ボスニアヘルツェゴビナ・モンテネグロ・北マケドニアとバラバラになった。かつてソ連は日ソ中立条約が1946年4月25日までは有効であるにもかかわらず、1945年8月8日一方的に日ソ中立条約を破棄し満州国・朝鮮半島北部・南樺太・千島列島に侵攻した。米国の広島への原爆投下のわずか2日後のことである。ソ連はサンフランシスコ講和条約にも出席せず、したがって現在も日本とロシアは平和条約が結ばれていないのである。
連合国から発展した国連において、ソ連を引き継いだロシアは、中華民国を引き継いだ中華人民共和国と共に、冷戦終結後も国連安全保障理事会で拒否権をしばしば行使し、西側諸国と対立してきた。ちなみに、一般的に死文化している解釈されているとしても、国連に敵国条項が削除されない限り枢軸国であった日独伊等はいまだに米英仏とすら同じ立ち位置にいないことは付言したい。
さて、今回のロシアによるウクライナ侵略において、ウクライナを守るために欧米自由主義国は直接手を下すことはできない。なぜなら全面核戦争の可能性があるからである。ソ連は世界を共産主義革命で変革することを望んでいた。同様に、毛沢東の中国やホーチミンのベトナムはもとよりカストロやゲバラのキューバをはじめベネズエラやニカラグアも社会主義国家であり、彼らの本来の目的も自由主義陣営の崩壊及び世界構造の変革である。その点、ウクライナ侵攻は本来の目的を遂行するための手段であり、そのプロセスの一つと見ることもできる。
現在自由主義陣営はロシアに対して経済制裁を実施しているが、貿易を自主規制するという点でまさに「もろ刃の剣」である。さらに経済制裁がエスカレートすれば、西側諸国の経済状態の悪化は避けられず、最悪の場合はウクライナの民主主義だけでなく資本主義社会の崩壊もあり得る。まさにそこがプーチン大統領の目論見ではなかろうか。ウクライナ侵略を受けて、冷戦はまだ終わっていないという声も聞かれるが、我が国の第二次世界大戦後いまだに片付かない状況を再認識する機会ともなっている。それらを打破するために、岸田外交がまさに試されているのである。
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