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2022-04-12 00:00
原発防護に自衛隊誘致の疑問
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「ロシア軍がウクライナのザポロジエ原子力発電所を攻撃したことを受け、原発が立地する福井県の杉本達治知事が8日、岸信夫防衛相を訪問し、迎撃態勢や自衛隊配備を求める要請書を提出した。要請書は、全国最多の15基の原発が立地する福井県では『地域住民が今回の武力攻撃で大きな不安を抱いている』と主張した。自衛隊による迎撃態勢に万全を期すことや、原発が集中立地する嶺南地域への自衛隊配備を実現することなどを求めている」(2022/03/05産経新聞)2016年から原子力規制員会の審査基準に原発へのテロからの防御が組み入れられるようになったことはよく知られている。自爆攻撃を敢行するようなケースを最高度のテロ行為とみなして原子力発電所の全システムについてチェックがなされるようになった。このため、冷却ポンプなど屋外にある重要な設備に強固な障壁を設け、その周囲にフェンスなどの柵や侵入検知器を設置すること、非常用の電源設備や冷却設備を互いに離れた場所に分散配置するなど細かなチェック項目が並ぶ。
しかしここで想定しているのは、何らかの政治的主張をもつ個人や集団という程度を想定しているのであって、国家の暴力装置としての兵力のような「軍事力」を想定しているわけではない。よもや、理性によって治められているはずの国家が「平和利用」を原則とする「原子力発電所」という経済システムに攻撃を加えるなどという事態は最初から想定のはるか外に置き去りしてきた。しかし、チェルノブイリやザボリージャ原発に銃弾を撃ち込むというロシア正規軍の破天荒な行為を見れば、前提そのものが間違っていたと判断せざるを得なくなってきたということであろう。
もとよりこのような蛮行を実行する国といえども他国とコトを起こすことなど決して無いということを国是とするこの国ではあるが、近頃の政治家の発言に核シェアなどという発言が日常的に飛び交うようになると、福井原発にどこかの国の国旗をつけたロケット弾が飛んでこないとも言えなくなってきたのであろう。福井県の上空高度10万メートルから眼下を見れば、西方にピョンヤン、北方にウラジオストクが鮮やかに視界に入ってくるだろう。そこには、ICBMはおろか、いまや核弾頭搭載可能な超音速ミサイルまで用意されているという。これはもはや「テロリズム」の定義では間に合わない規模と言わざるを得ない。福井県知事の不安はここにあると見たがどうだ。
原発15基を有するがゆえに、その功に報いるに金員を持って補助されたがゆえに、47都道府県中、上から数えて10本の指に入る豊かな福井県だが、いまやそれはそのまま不安の材料となったのだろう。しからば、新潟、青森、その他原発立地県の知事さんたちも枕を高くして眠る訳にはいかないのではないか。杉本達治福井県知事がいま考えるべきことは、自衛隊誘致ではなく原発を依存する必要のない福井県を作ることではないのか。幸い同県は教育レベルが高く、優秀な人材の集積する地域であって、個性的な企業や産業が立地しているのだから。
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