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2022-04-15 00:00
東京地裁が「朝鮮総連が騙した」と認めた意義
荒木 和博
特定失踪者問題調査会代表
3月23日、川崎栄子さんら脱北者5人が北朝鮮帰還事業の責任を北朝鮮に問う裁判の東京地裁での判決が言い渡されました。判決自体は棄却でしたが、この裁判は大きな意味を持つものと思われます。私はこの裁判についてはほとんどお手伝いしていませんが、第三者的視点で一言申し上げておきたいと思います。
まず、そもそも被告を「朝鮮民主主義人民共和国 同代表者国務委員会委員長 金正恩」とする裁判が日本で行われたということが重要です。これは初めてのことであって、口頭弁論にあたっては被告金正恩の呼出状が裁判所に掲示されました(もちろん本人も代理人弁護士も出頭しませんでしたが)。そして、今回東京地裁は総聯が在日を騙して北朝鮮に送り込んだことを認めました。
特に下に引用した部分は重要です。要は北朝鮮と朝鮮総聯が在日朝鮮人を騙して北朝鮮に送り込んだことを認めています。そして、だからこそ本裁判は日本の裁判所が管轄権を有するとはっきりと述べているのです。訴えが棄却されたのは騙して北朝鮮に連れて行ったことと、その後留め置かれたものが別々であるから除斥期間が過ぎているというのが根拠であり、この点は弁護団も苦労したようですが、常識的に考えればこれが一体のものであったことは明らかです。高裁ではぜひその点を取り上げて判決を出してもらいたいと思います。
記者会見で川崎栄子さんは泣いておられました。確かに原告の方々は高齢で、時間がないのは間違いありません。その意味ではあくまで第三者の私とは全く切迫感が違うと思いますが、勝訴しても北朝鮮が賠償する訴訟ではありません。最終的な目的は裁判だけで解決することではないので、ともかく使える手段を全て使って一つひとつのことを積み上げていくしかないと感じた次第です。その意味では今回の判決も一歩前進だったのではないかと思います。
引用:判決文46~47ページ
朝鮮総連は、被告の意を受けて、その会員等を通じて、北朝鮮を「地上の楽園」と表現するなどして、被告が衣食住等の環境に恵まれた国である旨の宣伝をし、帰国事業の勧誘を行ったと認められる。
しかしながら、上記認定事実(2) イないしエ、(3) イ及びウ、◎イ、(5) イ及びウ並びに(6イ}によれば、帰国事業実施当時の北朝鮮における生活水準は、本邦におけるそれよりも明らかに劣るものであり、朝鮮総連の宣伝内容は事実に反するものであったことが認められる。そして、上記認定事実(2な)いし(6各)アによれば、原告らは、朝鮮総連の会員等から、北朝鮮における状況について、上記のとおり事実と異なる宣伝による勧誘を受け、少なくとも、本邦での生活を継続することと比して、良い環境において生活できると認識したことなどを主な動機として、北朝鮮への帰国を決断したものと認められる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、本件不法行為1のうち、勧誘行為については、被告が、朝鮮総連と共に、又は、朝鮮総連を通じて、北朝鮮の状況について事実と異なる宣伝による勧誘を行ったことにより、原告らが北朝鮮の状況について誤信し、北朝鮮に渡航するとの決断をしたという客観的事実関係が認められる。
そして、上記勧誘行為の行為地は、本邦であると認められることからすれば、原告らが、被告に対し、被告が上記勧誘行為に及んだことによって原告らの居住場所及びそれに伴う国家体制を自ら選択する権利を侵害したとして不法行為に基づき損害賠償金の支払を求める訴えについては、日本の裁判所が管轄権を有するということができる。
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