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2022-05-24 00:00
なぜ露は「核恫喝」をしなくなったのか
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
2月24日のロシア軍によるウクライナ侵略からすでに3か月が経過した。戦況はウクライナ軍の善戦で膠着状態の様相である。しかし、この間、ウクライナ市民の犠牲者は数万人に上っており、ウクライナ側の病院、学校等の公共施設や民間住宅、インフラ等の被害は甚大である。いかなる理由があろうとも、国連総会の決議の通り、今回の侵攻はロシア軍による他国への軍事侵略であり、国連憲章第2条違反である。
侵略当初、ロシアのプーチン大統領は、米国をはじめとするNATO(「北大西洋条約機構」)加盟諸国に対して、NATOの軍事介入などによって、ロシア側の戦争目的が妨害されれば、核兵器の使用を排除しない旨の「核恫喝」をしていた。このため、NATOはウクライナへの軍事介入を行わず、武器援助のみにとどめた。しかし、仮に、NATOが軍事介入をしたとしても、以下の理由により、ロシア軍による核の先制使用は決してなかったと筆者は考える。
第一の理由は、想定されるNATOのオプションには核兵器の使用が含まれないことである。通常兵器による軍事介入に対して、ロシア軍が核兵器を先制使用すれば、当然米軍を中心とするNATO軍による核報復をもたらすため、ロシアが滅亡する危険性があるからである。第二の理由は、想定されるNATOの軍事介入は、ロシア領内には及ばずウクライナ国内のみに限られるということである。仮に、通常兵器による軍事介入がロシア国内に及び、且つ、ロシアの存亡を左右する危機的事態となれば、ロシア軍による先制核使用の可能性は排除できない。なぜなら、ロシア側は、「NATO軍の軍事侵略に対する国家存亡の自衛戦争」とみなす可能性があるからである。そう考えれば、NATO軍はロシア領内に進入すること自体に極めて慎重になるだろう。
このように、ロシア軍による先制核使用の可能性は、NATO軍による通常兵器による軍事介入がロシア国内に及び、且つ、ロシアの存亡が左右される危機的事態となった場合のみに限られる。これ以外にはロシア軍による先制核使用はないと筆者は考える。そのような事態は想定されないため、最近ではプーチン大統領も「核恫喝」をしなくなった。上記の理由から、恫喝が無意味であることをプーチン大統領自身も自覚したからである。さらに、ロシア側の核ミサイル防衛システムは米国よりも脆弱で、米国の核攻撃による甚大な被害を免れる方法がなく、ロシアに選択肢の余地をなくしている。このように、「核抑止力」の本質は核による大量報復能力にあることは明らかである。ロシアだけでなく中国も北朝鮮も、米国に比べれば、核ミサイル防衛システムは同様に脆弱であり、米国の核による大量報復能力に対抗できない。そのため、これらの国は核の先制使用を抑止されているのである。
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