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2022-06-02 00:00
(連載3)真の「芦田修正」は国際法尊重主義
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
4.「自衛戦争」は国際法の用語ではなく、大日本帝国の用語
混乱は、戦前の大日本帝国憲法時代に確立された概念構成に、日本の憲法学がとらわれすぎ、未だにそこから(イデオロギー的事情もあって)脱却できないことである。それを象徴するのが、「自衛戦争」という概念である。しばしば「芦田修正は自衛戦争を肯定するもの」と説明される。だがこれは日本国憲法の趣旨をいたずらに混乱させる説明でしかない。なぜなら「自衛戦争」なる概念は、国際法には存在しない概念だからだ。「自衛戦争」は、戦前の大日本帝国憲法時代の日本で、不戦条約を締結したにもかかわらず満州事変を起こしてしまったとき、「統帥権」などの天皇大権を理由に正当化を図ろうとした際に日本人が勝手に作り出した概念でしかない。「自衛戦争」という概念それ自体が、反国際法的なものである。したがって「自衛戦争を合憲ととらえるか否か、答えよ」という問いを設定する時点で、「まずは国際法の枠組みは否定する立場をとったうえで、この質問に答えよ」という前提を強いているのである。問いを発している時点で、国際法を尊重する国際協調主義を標榜する日本国憲法を真っ向から否定することを強いる問いなのである。
第一次世界大戦後に成立した1919年国際連盟規約が「戦争(war)」を違法とする新しい国際法の仕組みを導入した。1928年不戦条約は、その「国際法の構造転換」をさらに強化した。日本国憲法成立前にすでに存在していた1945年国連憲章も、「戦争」を違法とする国際法を強化するものとして導入された。世界の誰も国際法を議論する場で、国際社会の規範原則を前提とする外交の場で、「合法的な戦争はありうるか」などといった問いは発しない。なぜなら国際法において「戦争」は違法だと決まっているからである。「自衛権の行使」は、この違法化された国際法上の「戦争」とは区別される。それは違法化された戦争に対する合法的な対抗措置のことである。戦争は全て違法であり、侵略(aggression)行為のことである。ただし、戦争を違法化しただけで、無法者が違法行為である戦争に訴えることを止められるわけではない。違法行為である戦争を抑止するための制度が必要である。国内社会では、犯罪に対して対抗措置をとるのは、警察官などの国家機構だけだと定められている。
しかし、国際社会には世界警察も世界政府もない。そこで別の形での違法行為に対する対抗措置が必要になる。それが国際法が定める自衛権であり、集団安全保障である。これらの対抗措置の制度がなければ、現実には無法者が違法な戦争に訴えても、それを止める手段もなく、戦争違法化は、絵に描いた餅になってしまう。自衛権の行使とは、違法行為に対する対抗措置である。それを何とかして「自衛戦争」だとかなんとか大日本帝国憲法時代に作られた怪しい謎概念で言い換えようとする必要はない。素直に、端的に、自衛権の行使とは、違法行為に対する対抗措置である、とだけ言えばいい。そして、素直に、端的に、そこに必要性の原則と均衡性の原則という制約がかかることを述べればいい。そのときにわざと「さあこの国際法上の自衛権と、『自衛戦争』とか『必要最小限の実力』などの国際法には存在しない日本人が勝手に作り出した概念との関係はどうなっているでしょうか」と問うたところで、誰も正確に答えられないのは当然だ。問いが間違っているのである。「国際法学など無視したい。国際法の概念構成など使いたくない。東大法学部の必修授業と公務員試験と司法試験を牛耳っている憲法学者だけが偉い。それだけだ」という怪しい習慣から抜け出る覚悟さえ定めれば、それでいいのである。日本国憲法の解釈も、ただそれだけで、全ての謎がなくなるのである。
5.真の「芦田修正」は国際法尊重主義
「芦田修正」について、まとめよう。芦田が行った修正は、前文と9条の連動性を明確にして、憲法の国際協調主義の立場から、9条が成立していることを明らかにするものだった。98条2項でも国際法の遵守を謳う日本国憲法は、「自衛権は無制限」などと主張するものでも、「自衛戦争なら合憲」と主張するものでもなく、「必要性の原則と均衡性の原則にそった国際法上の自衛権の行使」だけを認めている。憲法を起草したマッカーサーやGHQ関係者は、そのように考えていた。国際法に明るかった芦田均もそう考えた。「真の芦田修正」も、当然そのことを明確にする意図を持ったものだった。(おわり)
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