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2022-06-11 00:00
ゼレンスキー「全ての領土回復」発言の意味
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
スイスの保養地ダヴォスで開催された世界経済フォーラム(WEF)に、オンラインでヘンリー・キッシンジャーが登場した。キッシンジャーはウクライナ戦争勃発以前の状態に戻り、そこから交渉を始め、ウクライナは領土に関して譲歩すべきだ、そうやって戦争を終結させるべきだという考えを述べた。戦争以前の状態とは、2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ東部のドンバス地方でロシア系住民の多い地域の自治という状態から始めるということだ。キッシンジャーはクリミアとウクライナ東部(どの程度の広さまでを含むかは不明瞭)についてウクライナは譲歩(割譲)すべきだと述べたということになる。
ウクライナ側では当然のことながらこれに対して反発が出ている。ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は「全ての領土を回復するまで戦う」と発言した。これは非常に重要な発言だ。ゼレンスキーの述べる「全ての領土」には2014年以降、ロシアに併合されているクリミア半島、自治区となっている東部地域も完全に回復するという方針だからだ。2014年以降に抱えた問題をこの戦争の機会を利用して一気に武力解決する、そのために戦争を継続することになる。2014年以降ウクライナ侵攻前までは、ウクライナがこうした地域の回復のために武力を行使しようとすれば西側諸国は反対し、武器を供与するということに躊躇しただろう。しかし、現在はそうではない。西側諸国はとりあえずロシア軍を撤退させることで戦争終結と考えているだろう。しかし、ウクライナの現政権にとっての戦争終結はクリミアと東部地方の回復である。と言うことは、戦争はより長期化し、より激戦化するということになる。ウクライナにしてみれば、敵(ロシア)を追い出すだけではなく、機会を捉えて敵を追おうということだ。
ロシアのウラジミール・プーティン大統領の核兵器使用を含む確固とした姿勢を受け、『ニューヨーク・タイムズ』紙ですら、「もう戦争を止めたら(ウクライナが譲歩して)」ということを言い出した。アメリカ国内に向けた核攻撃の可能性が出てきて震えあがっているのだ。調子に乗って威勢のいいことを言ってみても、これでは何とも情けない限りだ。EUもまたロシアはいつでも隣人だと言い出した。そのうちにEUに入っていないウクライナを助ける義理はないなどと言い出すだろう。ヨーロッパ諸国が歴史的にやって来たことを見ればこれくらいのことはずるいとも悪辣とも言われない、日常茶飯事のことだ。
ウクライナが全領土を回復することは不可能だ。西側諸国もそこまでのことには付き合いきれない。自分たちの身だって危うくなるのだ。そんな不可能なことを言い出して戦争を継続するということに何の正当性があるのか。かえって戦争を拡大し非常に危険なことだ。
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