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2022-06-23 00:00
権威主義に打ち克ち民主主義的体制を持続発展させるために
畑 武志
神戸大学名誉教授
ロシアによるウクライナ侵攻でもたらされた戦争の拡大はますます悲惨な状況を呈するに至っている。この戦争を止める手段を世界はなかなか見出せないでいる。権威主義的国家による人権や自由の侵害に対して、民主主義国家は如何に対応すべきなのか。独裁の横暴を止めるには、先ずロシア国民がこの戦争の実態を知ることだとして、ベラルーシのノーベル文学賞作家・記者スベトラーナ・アレクシエービッチ氏やロシアの著名作家らが欧州メディアで声明を出している(2022.3.6付各紙)。
真実を知ることは、民主主義の根幹であるが、真実に近づくことを遮断され、プロパガンダが支配的になっている国の国民にそれを伝えるのは並大抵なことではない。しかし、真実を知り、真実を探究することは国家体制に関わらず人間の根源的な欲求であり、科学精神でもあろうから、真実を探り伝えることは避けて通れない事柄でもある。あらゆるメディアの本来の目的とすべきところでもある。すべての国民がアクセス可能な真実を伝えるニュースステーションが用意され、スマホやラジオ等を通して情報を得ることができるならば、世界の状況は変わってくる。国家による組織的な情報遮断のいかなる制約条件下であっても真実を伝え続けられる技術は今最も急を要する開発事項であり、実際私的にも公的にも多様な模索が行われつつある。さまざまな通信機器が人々の所有するところとなっている現在、独裁者が恐れる真実が伝わっていくことを阻止することもまた困難な時代になっている。人々がそれぞれ正しいと判断する行動に対して理解を示すだけでも世界は変っていくであろう。
フェークニュースが蔓延する今、何が真実であるか、信頼される報道機関の存在が求め続けられている。様々な圧力を跳ね除け、不偏不党で、真実を多くの言語でも伝えられるようにしてきた関係機関の努力は貴重である。BBCやNHK等でもそのような努力は重ねられているのだろうか。国連は今回の戦争を止めるには余りにも非力であったが、真実を伝えようとする彼らの努力を支援し、世界的な信頼を高めることくらいには貢献できないだろうか。
民主主義的体制の国においても、人権や自由の確保のためには、それなりの努力が求められるのは当然である。政府の各種専門委員会や地方自治体の委員会等においても、政策立案者側によって指名される限られた専門家による議論だけでなく、幅広く一般からの意見も採用し、議論できる仕組みになっているか、検討すべきであろう。地域の発展や社会の進展のためには、広く国民の知見を反映できるシステムづくりが重要である。多くの優れた国民の多様な能力を引き出し活用できる政治体制こそ高度で急速な民主的発展を促すことになる。権威主義的政治体制下の人々とも、真実を求める人々である限り連帯感をもって世界の平和を追求し、社会の改善を思考していくことは、自由と人権を確保している民主的国家に生きる者がその権利を享受し続けるための必要条件でもあろう。そのような努力が疎かになれば、民主主義的国家においても権威主義が台頭し、独裁的国家体制へと容易に変容していくことは、これまでのさまざまな事例が物語っているところである。
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