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2022-07-01 00:00
日本が東西安保の「連結器」
鍋嶋 敬三
評論家
世界は歴史的転換点に立った。ロシアによるウクライナ侵略戦争の最中、欧州で連続して開かれた先進7ヶ国(G7)と北大西洋条約機構(NATO)の首脳会合(6月26日~30日)は中国による一方的な現状変更も重なり、「国際秩序を守る」ための合意形成が進展し、欧米とインド太平洋をつなぐ安全保障強化のための「環」が姿を現してきた。G7でアジアから唯一参加する日本が米欧(大西洋)とインド太平洋間の安全保障強化の要となる「連結器」の役割を果たす責任は大きい。ドイツ・エルマウでのG7はロシアに「直ちに無条件の敵対行動の停止」を求めた。中国には「東シナ海、南シナ海での力による現状変更の一方的な試みに強く反対」を確認。北朝鮮には核兵器や弾道ミサイル計画の放棄を要求した。さらに全ての国に国連安全保障理事会の制裁決議の「完全で効果的な履行」を求めた。これは新たな決議案に中露が初めて拒否権を行使して葬ったことや制裁破りを念頭に置いたものだ。
岸田文雄首相がG7で「インドや東南アジア諸国首脳との間で、力による一方的な現状変更を認めない原則で一致している」と述べたのは、アジアの代表としての立場を示したものである。日本にとってG7はアジア・太平洋地域の声を反映して国際的に影響力を行使できる重要な外交の場だ。スペイン・マドリードでのNATO首脳会議で10年ぶりに「戦略概念2022」が発表された。ロシアは「同盟国の安全保障及び欧州-大西洋地域の平和と安定に対する最も重大で直接的な脅威」と認定した。10年前の「戦略的なパートナー」との位置付けから真逆の大転換だ。それだけ「プーチンのロシア」に対する危機感が強烈である。フィンランド、スウェーデンの新規加盟によるNATO拡大に動いたのもこのためだ。
中国の挑戦についても初めて書き込まれた。「欧州-大西洋地域の安全保障に対する体制上の挑戦であり、同盟国はこれに対処する」と規定した。日米欧など自由・民主主義体制と対立する中国の権威主義体制に毅然と対処する方針を明確にしたものだ。米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月27日の記者会見で、中国による挑戦への対処について、G7 とNATOで一致していることを強調した。サリバン氏は「我々は冷戦とか、世界のブロック分割を求めているのではない」とした上で、「公正で誰もが合意できる原則とルール」を求めているのであって「中国はこのルールを守る責任がある」と呼び掛けた。「これがエルマウ(G7)とマドリード(NATO)から出てくる精神とメッセージだ」と語っていた。
岸田首相とストルテンベルグNATO事務総長との会談で「欧州とインド太平洋の安全保障は切り離せない」との認識の下で、日本とNATOの相互の演習の参加を含めた協力の深化で合意した。自衛隊とNATO軍との交流も進めたい。首相はNATO30ヶ国のほか、主要パートナー国として日本やオーストラリア、欧州連合(EU)などが参加した合同会議で最初に発言、ロシアのウクライナ侵略が「国際秩序の根幹を揺るがし、ポスト冷戦の終わりを明確に告げた」と述べた上で、東シナ海、南シナ海で力を背景にした中国による一方的な現状変更の試みが継続されており、「ウクライナは明日の東アジアかも知れない」と危機感を露わに訴えた。岸田首相はNATOアジア太平洋パートナー(AP4)首脳会合も主催した。日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国の4ヶ国がインド太平洋とNATOの意思疎通を図ることで一致した。日本はAP4を主導してNATOとつなぐ責任を負うことになった。その背景には、中国の脅威を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」構想をこの数年間、米欧に働き掛けEU、NATOとの協力関係を強化してきた地道な日本外交の努力がある。 アジア太平洋から米欧へと東西の橋渡しを共通の使命感を持って推進する日本の役割に大いに期待したい。
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