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2022-07-12 00:00
安倍元首相襲撃事件に思う
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「安倍晋三元首相は8日午前、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で参院選の応援演説中に銃撃され、午後5時3分に搬送先の奈良県立医医科大学付属病院で死去した。67歳。東京都出身。銃創は心臓に達していた。失血死とみられる。奈良県警は元海上自衛隊員の職業不詳山上徹也容疑者(41)を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。・・・容疑者は『安倍元首相に対して不満があり、殺そうと思って狙った、などと供述した」(2022/07/11朝日新聞)その後今日までの短時日間の報道で見る限りでは、日本近代史上最長政権を維持した政治家の襲撃事件としてはあまりに「個人的」であり「非政治的」な事件であったように見受けられる。というのも、犯人は、相当な労力と知力を傾注して手製の銃を製造し、前日には安倍氏を追って岡山まで出張って機会を探り、安倍氏の遊説日程の変更情報を追跡するなどして地元の奈良で殺害を断行している。
その情熱を捧げる相手は政治家であるからその政治信条だけが問われるべきものを、犯人はそれらには一顧だにせず、ただ母親を熱中させた新興宗教に対する被害意識とその組織と安倍氏の関係という二次的証拠を犯行の動機付けに採用したのであるらしい。つまり、殊の外に政治的人間であった安倍晋三氏にとっては彼が傾注した政治的「業績」に挑戦されたのではなくて、はるかに副次的な外部関係によって不条理にも殺害されてしまった。
さはさりながら、こういう世間を震撼驚愕させるに十分な事件が起こった以上捜査当局や裁判所には、犯人の心象風景について国民に細大漏らさず説明してもらいたい。上の新聞には「容疑者の親族という男性が『ある宗教団体を巡って容疑者の家庭は壊れた。本人はその宗教を迷惑に思っていたはずだ』と話した」とあり、容疑者の母親が「その宗教団体」に多額の献金をしたために家計が傾いてしまったのだという。それが安倍晋三氏にどのような経路で因果の「とばっちり」がつながったのかは、これらの記事からだけでは想像がつかないが、それでも「犯人が迷惑に思っていた」宗教団体と安倍氏とがなんらかの近い関係にあったということぐらいはうっすらと想像できる。
もしこの想像が当たらずとも遠くないとすれば、昭和史に残る右翼宗教団体による無数のテロ事件を思い出す。今この国を覆っている閉塞感が戦前の暗黒時代に通底するのであれば「日本人は歴史に学ばない国民」というよく言われる評価に逢着することとなる。一昨日の参院選結果は、安倍氏が夢に見た改憲勢力3分の2の大勝利に終わった。安倍氏は不在だが、時代は暗転の時を迎えたといえるのではないだろうか。
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