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2022-08-02 00:00
「プガチョフのコブラ」について
河村 洋
外交評論家
去る7月7日付けの拙稿『(連載1) イギリスはインドを西側に引き込めるか』の第4段落に記した「プガチョフのコブラ」について、どのような飛行運動なのかを文字で説明することは非常に難しいので、以下に図を示したい。
出典:Wikipedeia, Cobra maneuver
この飛行運動は正式には「コブラ・マニューバ」と呼ばれ、スホイ設計局テスト・パイロットのヴィクトル・プガチョフ氏が1989年のパリ航空ショーで当時の新鋭機スホイ27のデモンストレーションで披露した曲芸飛行にちなんで別名も使用されている。図に示された運動では、戦闘機が蛇使い大道芸のコブラの頭のように動いている。両主翼が、その頭の襟のようにも見える。この飛行運動の能力はスホイ27を基に開発されたフランカー・シリーズにも引き継がれ、中でも最新のスホイ35は推力偏向ノズルを備えたエンジンでさらに運動性を高めている。旧ソ連およびロシア製戦闘機では、ウクライナ空軍の主力にもなっているミグ29もコブラ・マニューバを披露している。西側ではスウェーデン空軍がドラケンのよる数度の訓練を経て、すでに1960年代にこの飛行法を習得したが一般には知られることはなかった。また、アメリカでもF-16の実験機で「プガチョフのコブラ」に成功している。
だがこうした高度な飛行技術の習得は容易でないうえに、実戦でどれだけ役立つかは定かではない。確かにドッグ・ファイト(近接格闘戦)で敵機の攻撃を間一髪で逃れるには、この飛行法は有用であろう。だがアビオニクスや搭載兵器の性能の方が重視される現在、ドッグ・ファイトの重要性は相対的に低下している。またコブラ・マニューバでよる飛行速度の急激な変化でレーダーに捕捉されにくくなることもあるというが、それならばステルス機を使う方が合理的である。よって「プガチョフのコブラ」は実戦よりも航空ショーなどの曲芸飛行向きとも言える。なお途上国がロシアよりフランカー・シリーズの機種を輸入しても燃料費などの都合で練習時間が限られるため、そうした国々ではパイロットのコブラ・マニューバ習得は難しいだろう。ちなみに今回のウクライナ侵攻では、ロシア空軍のスホイ35が優れた運動性も虚しく撃墜されている。
日本の近隣では中国海軍の空母艦載機J-15はロシア製のスホイ33をモデルとしたフランカー・シリーズの機種ではあるが、違法コピーなのでそれなりの性能しかないだろう。何よりもJ-15を搭載する遼寧、山東はSTOBAR(カタパルトなし、着艦用アレスティング・フックは装備)式なので、そうした空母の艦載機は発艦重量を軽量化するために兵器と燃料を少なめに搭載している。これではアクロバット飛行で燃料を使うだけの余裕はなさそうである。それに対して3番目の空母、福建には電磁カタパルトが装備されて重量のある機種でも発艦できるということだ。しかしこちらにはコブラ・マニューバのような運動性重視の艦載機ではなく、J-35(J-31の海軍版)ステルス戦闘機が搭載されるようである。
今回のウクライナ侵攻では、戦争の遂行におけるロシアと西側(日本も含めて)と戦略・戦術思想の違いが頻繁に語られている。そうした東西の軍事思想の違いは、ソ連崩壊を目前に控えた時期の「プガチョフのコブラ」を通じても垣間見える。
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