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2022-08-08 00:00
(連載1)安倍銃撃事件に誰が引責するのか
袴田 茂樹
JFIR評議員/安全保障問題研究会会長/青山学院大学名誉教授
7月8日の安倍晋三元首相の銃撃事件は、ロシアのウクライナへの軍事侵略事件に続いて、日本国民の「平和ボケ」ぶりを痛感させられた。事件の後、テレビその他のメディアで事件関連の状況を知り、私が唖然としたというか、最も強いショックを受けたことが2つある。
第1は、国家的人物いや世界的人物である安倍氏の身辺警備の、信じられないほどのお粗末さである。彼は元首相とはいえ、与党自民党内でも最大派閥の長で、日本の政治家としては、戦後世界的に最も大きな存在感を示し国際的影響を与えていた人物だった。事件を振り返ると、交差点中央のガードレールで囲まれた所謂ゼブラゾーンで参院選の応援演説をしている安倍氏の映像が事件当日から幾度もテレビやネットに流された。それらを見ると、国際常識ではあり得ないことだが、安倍氏の後ろの側の道路や歩道はオープンで、車、自転車、台車を押す人、通行人などが自由に通っている。それに対応する警察官やSPはほぼいないも同然。今回も犯人は、誰にも誰何されることもなく悠々と歩いて道路を横切り、安倍氏の真後ろから射撃した。国外で何年も生活し、要人とも幾度も会っている経験からすると、この状況は信じられないというか、ただ唖然とする他はない。私は警備問題の専門家ではないし、既に専門家筋がいろいろ論じているので、何故にこのような状況が生じたのかは論じない。ただわが国の要人警護にきわめて深刻な欠陥があるこということだけは確かだ。「平和ボケ」と述べたが、社会は基本的に安全だという日本人の性善説的な意識が、国際問題でも今問われている。それを「現代日本人の愚昧と不手際」と酷評する評論家もいる。
第2は、世界が注目したほどの重大かつ深刻な事件に関連して、そして素人が見ても唖然とするほどの失態に対して、誰も責任を取って辞職した者がいないという、わが国の政治機構の無責任体制である。本稿ではこの問題について少し考察してみたい。事件が起きたのが7月8日、約1週間後に97歳の市村真一京大名誉教授から次のメールを頂いた。
拝復 あとの祭りですが、警察庁長官の辞表が第一、首相のおわびと警告が第二、国葬の決心は後でよかった。たるんでいる日本を全世界に示しました。 敬具 市村真一
市村氏から頂いた直截なメールがゴチックの大文字だったので、本人の許可を得てそのままここに紹介した。彼は事件後の1週間、日本の警察当局、政府当局の対応をフォローし、その間、知り合いの警察庁関係の元高官とも連絡を取り、見かねてこのメールを何人かの親しい知人に送られた。氏は、1953年にマサチューセッツ工科大学(IMT)で博士号を取り、米国や日本の諸大学で研究・教育活動をされた国際的に著名な経済学者である。同時に日本の歴史や文化、外国人と比べた日本人の発想法や心理にも造詣が深く、皇室問題の政府顧問などもされて来た。今回の事件で、皇室関係者の警備のあり方も、当然問題になっている。このメールを受けた後、個人的に氏と話したが、「私は国葬には反対ではない。しかし、その前に、やるべきことがあるはずだ」との気持ちを強く述べられた。実は、私も全く同じことを考え、同じ気持ちを抱いていたので、今月この問題を取り上げることにした。
明治維新の後、廃藩置県で俸禄(扶持)を失ったサムライが主として中央、地方の官僚の道に進んだ。その意味では、警察官僚はサムライの直系の後裔でもある。サムライが主役だった時代に、将軍あるいはそれに並ぶ要人が、警護の過失で殺害された場合、警護に責任を負うサムライたちが切腹するのを止めることは誰にもできなかった。もし切腹しなかった場合、処刑されると思われる。サムライでなくても、幸田露伴の『五重塔』(1892)に描かれているように、大工、棟梁、職人たちでも自分の仕事には命を懸けるとの自負あるいは責任感があった。『五重塔』はフィクションだが、明治から昭和にかけて大評判になったのは、多くの日本人がそこに深く共鳴するものを感じたからだ。あえてサムライと言うのは、今日でも世界で「強い責任感を有し毅然と行動する日本人」をそう表現しているからである。(つづく)
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