ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2022-08-18 00:00
(連載2)なぜダボス会議のキッシンジャー発言は誤解されたのか
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
戦争の原因は、多岐にわたる。政治指導者の思想や人間性も大きな要素だし、紛争当事国の歪な国家構造も重大な戦争要因だ。ただし外部者が一番考えなければならないのは、国際システムのレベルでの紛争原因の改善である。それを考えることなしに、ただ「ウクライナ人よ、プーチンに騙されてくれ」と説得しようとしても、単なる身勝手でしかない。
ウクライナは、国際的な安全保障システムに全く加わることができず、「力の空白」の状態に置かれ続け、ロシアの侵略を受けた。この状態を改善するためには、国際的な安全保障の傘をウクライナに対して提供することが、どうしても必要である。換言すると、ウクライナが今はまだ戦争を止めることができないのは、国際的な支援を動員してロシアの脅威に対抗する実力を持っていることを見せつける必要があるからである。そうしないと将来の脅威の増大を防ぐことができない。ウクライナは長く「緩衝地帯」であるとみなされてきたが、その状態を復活させることは、ほぼ不可能である。そうであるとすれば、ウクライナをカバーする形での積極的な国際安全保障体制が構築されなければならない。ただしウクライナのNATO加盟は、少なくとも早期の加盟は、現実的ではない。そこで代替となる国際安全保障体制が必要となる。マクロン大統領が述べている「欧州の新しい政治共同体」は、NATOでもEUでもない形で、ウクライナの安全保障を支える制度的枠組みが必要だ、という趣旨だろう。
キッシンジャーが「正統性と均衡」を語るとき、意味しているのは、「お土産と妥協」ではない。国際秩序を再構築するために、「正統性」の原則を維持しつつ、力の「均衡」によって国際秩序を支える体制を作らなければならない、ということである。より具体的には、ウクライナを取り込んだ新しい国際安全保障の仕組みが、「正統性と均衡」の再構築を通じた国際秩序の維持にとってのカギになるだろう。
日本では、イジメの報告を受けると、被害者に泣き寝入りを強要するような解決策を求める「大人」たちが後を絶たない。ヤクザに嫌がらせされたら「お土産を貢げ」が「大人の知恵」であるかのように信じ込まれている。だが、それは、「いい加減でその場限りの近視眼的で無責任な態度をとっても、まさかお土産くらいで社会秩序は崩壊することはないだろう」、という盲目的な安心感によって成り立っている。国際社会のような本当に秩序が脆弱な社会で、主要構成員が次々とそのようなその場限りの近視眼的で無責任な態度を取り続けたら、社会秩序は崩壊する。そのことを想像することができない「お土産」論者は、日本の「お花畑」思考の悪弊の代表者たちだと言って過言ではない。(おわり)
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
公益財団法人
日本国際フォーラム