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2022-09-01 00:00
(連載3)問われる日本学術会議の世界観
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
マルクス・レーニン主義的な世界観に立てば、キーウを首都とするウクライナ政府を支持している大多数の「ウクライナ人の視点」も、「先進国」によって作り出された「虚偽意識」に翻弄されているだけの存在とみなされるだろう。日本共産党は、マルクス・レーニン主義の世界観を保持している政党であるとみなされることを恐れて、積極的にロシア批判を展開している。だが、「ウクライナは降伏するべきだ」、「ウクライナは領土を割譲して停戦を実現させていないので非難すべきだ」、「ウクライナ人はアメリカの帝国主義の犠牲になっているだけだ」といった声は、実態として主に左派系の言論人から噴出してきている。(あとは反米主義的な国粋主義者が、同じ主張している。)
ロシア・ウクライナ戦争をめぐる対立の構図を、「先進国vs新興国」という世界観でまとめようとすること自体が、かなり独特な「一つの世界観」である。正直、私自身は、2022年になって「先進国」といった概念で、欧米諸国をくくろうという試みには、疑問を感じざるを得ない。世界の安全保障の中心的課題は、米国に対抗する軍事力と経済力を備える中国の位置づけであり、やむをえず中国を「新興国/グローバルサウス」の側に立つ国、とみなしているのだとしたら、現実政治の安全保障の専門家との対話は困難になるだろう。中立的な立場をとっているインドのGDPは、今やほとんどの欧米諸国のGDPより大きく、近い将来に全ての欧州諸国のGDPを抜き去ることは確実だ。
欧米諸国だけが「先進国」だ、という世界観を自明の前提にできる時代は、現代政治を扱う研究者層の間では、すでに終わっている。したがってロシア・ウクライナ戦争をめぐる議論の中で、専門家層が「先進国」という概念を用いて、対立の構図を説明する、という場面もほとんどないように思われる。
ロシア・ウクライナ戦争をめぐって、かなり錯綜した議論が見られるのは、このあたりの根源的な世界観のところで、論者によって「自明の前提」が異なっていることが、大きな要因だろう。(おわり)
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