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2022-09-05 00:00
(連載2)プーチン後のロシアを考えよう
松井 啓
初代駐カザフスタン大使
ロシアは中国に比しGDPでも人口でも10分の1となっているので、これ以上弱体化して中国の弟分となって談合や共闘することは避けなければならない。日本はソ連時代でもシベリア開発、森林、石炭、石油、港湾建設、漁業など協力の実績があり、ロシアにとって広大なシベリア開発は中国よりも日本に期待するところが大きいことは、最近のサハリン2のガス開発プロジェクトへの日本参加招請に表れている。アメリアに対しては対中戦略の見地からこれ以上ロシアを追い詰めることを控えるよう理解を求める要があろう。
他方、バルチック艦隊の出口はスウェーデン及びフィンランドのNATO加盟により不都合となり、クリミア半島に拠点を置く黒海艦隊はNATO の一員であるトルコの存在感が急速に高まっており、制約がかかる恐れもある。積年の念願である海洋への自由航行ができるのは太平洋艦隊しかない。サハリン、千島列島、北方領土の地政学的重要性は益々高まっている。極東を中心としたロシア軍の軍事演習が9月1日から開始され、CSTO(集団安全保障機構)の同盟国以外にも中印、シリア、ニカラグア等14カ国が参加している。ロシアの太平洋艦隊と中国海軍は日本海で共同訓練を行い「様々な安全保障の脅威に共同で対応する能力を増強する」としているが、露中の対日米牽制とみなすべきである。
対露外交の基本は長期的視野に立った「焦らず、慌てず、諦めず」である。日露中立条約の破棄、終戦後の北方領土占拠、60万人の捕虜強制労働等、ロシアの不法性のアピールは外交カードとして時に応じ活用していくべきであるが、ロシア人の舞台芸術、文学、音楽。絵画は尊敬すべきものであり、民間レベルの多層的相互交流は更に活発化していくべきであろう。
なお、ロシアのウクライナ侵攻直後に国連総会で採択されたロシア非難の国連総会決議では、賛成141カ国、反対5カ国(ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリア)、棄権35カ国(中国、インド等)、無投票12カ国となっており、民主主義・法の支配を尊重する欧米諸国派と強権政治・力で支配する中露派の2極のいずれかに属するのをためらっている国が47カ国もあることを示している。これら諸国は冷戦時代の非同盟運動(Non-Aligned Movement)に因んで、新非同盟あるいは拡大南側諸国(Greater South)と称されよう。アフリカ大陸に対しては日本が先駆けて1993年にアフリカ開発会議(TICAD)を開始したが、中国、ロシア、アメリカもこれを模して進出を図っている一方、ASEAN等アジア諸国は、急速に大国化し、経済力、軍事力で圧倒的な力をつけた中国との直接の対立を避けようとしている。日本としては、Greater Southに露中強権主義対欧米民主主義の2極対立を持ち込まないよう配慮していく要があろう。(おわり)
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