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2007-11-01 00:00
必読の教養書、『新・戦争論』
堂之脇光朗
日本紛争予防センター理事長
この政策掲示板でもすでに何度か紹介された伊藤憲一氏の新著『新・戦争論』(新潮新書)は、堅苦しい題名にもかかわらず、国際問題に多少とも関心のあるすべての人のための一般教養書である。人類の起源以来の雄大な歴史を回顧し、この1万年ほどは社会現象としての戦争が絶えない「戦争の時代」であったが、核兵器の登場と冷戦期を経ていまや国際社会は「不戦の時代」に突入しつつあると論じている。軍備管理・軍縮の問題に長らくかかわってきた私にとっては、学ぶところが多く、違和感の少ない専門書であるが、一般の人にも分かりやすく、説得力のある筆致で書かれた手頃な解説書といったところである。
「不戦の時代」に突入といっても、「東アジアは、欧州とは異なり、まだ冷戦の最中にある」として日本を取り巻く情勢を日清、日露戦争時代への「先祖返り」とするような考え方に対しては、核抑止力体制下で軍事力以外の方法による戦いをつづけているとの意味ではまさに「冷戦の最中」にあるが、時代の変化を理解しない非歴史的思考、非戦略的思考であると断じており、小気味よいほどに明快である。「不戦の時代」をむかえて日本の選択はどのようなものであるべきか?わが国は世界不戦共同体に米国の同盟国として協力しつつも、それが「アメリカ帝国」的色彩でなく「世界政府」的色彩を強めるよう努力するべきであるとする、本書の提言に異存のある日本人は少ないであろう。
加えて、「積極的平和主義」も提言されている。「あれもしない、これもしない」といった「消極的平和主義」は戦争時代の思考法にとらわれた偽物の平和主義であり、国連の平和維持活動などのために「あれもする、これもする」との積極的平和主義こそが不戦共同体の一員としての日本の選択であるべきだとしている。7年ほど前に総合研究開発機構(NIRA)が「戦争の時代から紛争の時代へ」などとして、「積極的平和主義を目指して」と題する研究報告を発表したことがある。その後、国連に平和構築委員会が設置され、わが国の防衛庁も防衛省に改組された。このような最近の時代の流れからみても、積極的平和主義がわが国の進むべき道であることは間違いないであろう。
本書は戦争が違法化された不戦時代にあっても平和を脅かす者(アクター)として、第一に「ならず者国家群」、第二にいわゆる破綻国家において大量虐殺などを行う「非国家アクター群」、第三に「国際テロリスト」の3グループがあるとした上で、とくに第二のグループに対処するために、わが国は「人間の安全保障」「紛争予防」「平和構築」などの活動に積極的に参加すべきであると提言している。言うまでもなく、ここでは「戦争」ではなく非国家主体を主たるアクターとする「紛争」が対象となる。「戦争時代」には周辺的な課題であった「紛争」への対処が、「不戦時代」には安全保障上の中心的な課題となり、当初は「予防外交」と呼ばれ、次いで「紛争(再発)予防」と呼ばれ、現在では「平和構築」とも呼ばれている諸活動の重要性を指摘している。わが国の積極的貢献が望まれるのである。
『新・戦争論』の「新」という一字には著者の伊藤氏の万感の思いが込められているとのことであるが、それを理解するためにも本書を一読することをお奨めしたい。
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