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2023-03-20 00:00
「反日」封じに世論外交強化を
鍋嶋 敬三
評論家
徴用工訴訟問題で戦後最悪とされる日韓関係は12年ぶりの韓国大統領の訪日で正常化に踏み出した。3月16日の首脳会談で岸田文雄首相が「新しい章を開く」、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「新しい関係を切り開く第一歩」と評価した。(1)徴用工問題で韓国の解決策を日本も受け入れ障害を取り除いた(2)日韓間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の「完全正常化宣言」(尹大統領)、日韓安全保障対話や日韓次官戦略対話の早期再開(3)経済安全保障対話の立ち上げ(4)韓国側が日本企業に弁済を求める「求償権」について「行使を想定していない」(両首脳)(5)首脳同士の「シャトル外交」の再開-などで合意した。日本政府は半導体関連品目の対韓輸出管理措置の緩和を決めた。日韓外交の「トゲ」がようやく抜けたのである。
正常化の裏には、東アジアの緊張激化へ対応を急ぐ米国の働き掛けが大きく貢献した。韓国政府が3月6日、徴用工問題の解決策発表と同時にバイデン大統領が声明を発表し「米国の最も緊密な同盟国間の協力の画期的な幕開け」と評価した上、「(日米韓)3ヶ国関係の強化を期待する」と述べた。サリバン国家安全保障担当大統領補佐官が「日韓の歴史問題解決で協力強化のドアを開く歴史的打開」と評価したのは、米中の対立激化、北朝鮮の核・ミサイル強化に対して日韓の対立が米国のアジア戦略推進の大きな障害になってきたという危機感からだ。米国が2022年5月の尹政権発足以来、対日関係の打開を強く韓国に働きかけてきた成果で、尹大統領の国賓受け入れ(4月26日)もその線上にある。
今回の日韓合意は正常化の第一歩に過ぎない。竹島不法占拠のほかに懸案はいくつもある。第一に、韓国海軍艦船による海上自衛隊哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件(2018年)がある。韓国側は5年間事実関係を否定し続けており自衛隊の対韓不信は拭われていない。このままでは北朝鮮のミサイル発射情報を瞬時に共有するなどGSOMIA の円滑な運用に支障が生じる。第二に、求償権の問題がある。韓国の大統領の任期は5年で次期大統領が求償権を主張する可能性は否定できない。
革新系最大野党の「共に民主党」の李在明代表は早くも求償権請求の可能性に言及している。韓国の歴代政権は保守、革新を問わず「反日」を政権維持、浮揚策として使ってきた。国内政治と外交を直結させる政権の体質が変わらない限り、今後の日韓、日米韓関係の不安要因として残らざるを得ない。韓国政治が「反日」の悪弊を克服出来るかどうかが鍵になる。
日本外交にも大きな課題がある。韓国も中国も日本にとって重要な隣国であるが、「世論外交」では完全に遅れをとってきた。外交では日本の正しいことを堂々主張して相手の不法行為に対しては非を鳴らし、公の場での発言で国際的にも日本主張を周知、納得させることが不可欠だ。「大きな声を出す」のに遠慮は要らない。バイデン政権の下、米中外交トップ会談でテレビを入れた公開の席で驚くほどの激しい言葉のやり取りが世界の耳目を集めた。自国の主張を訴えて国際世論を味方につけるためだ。
SNSを駆使して偽情報を発信、相手国の世論を惑わせ、自国の主張を正しいものと信じ込ませる「情報戦」が横行している。ロシアがウクライナを中心にしきりに行っている偽情報工作も戦争の一面である。日本は「日本海」の名称維持や世界文化遺産の指定などでも韓国の情報戦に遅れをとって国益を損じてきた。守りに徹するのではなく、日本の主張を積極的に世界に浸透させ味方につける積極的な世論外交(PUBLIC DIPLOMACY)を大胆に強化すべきだ。戦争で必要なのは兵器だけではないである。
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