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2023-05-16 00:00
北朝鮮への「人道」支援は可能なのか
荒木 和博
特定失踪者問題調査会代表
救う会・家族会・拉致議連の代表が、さる5月はじめの訪米の日程を終え帰国しました。それぞれ忙しい中誠にご苦労様でした。さてしかし、今回米国側に理解を求めたという「親世代の家族が存命のうちに全拉致被害者の一括帰国が実現するなら、我が国が北朝鮮に人道支援を行うことに反対しない」という救う会・家族会の運動方針について、私は反対せざるを得ません。理由は次の通りです。
(1)そもそも「全拉致被害者」がどこまでを指すのかが不明
「全拉致被害者」が何人いて、誰がどこにいるのかを把握している人間はいません。金正恩でも分からないでしょう。もちろん日本も米国も韓国も中国も全体は把握していないはずです。しかもグレーゾーンのような人(騙されて北朝鮮に行ったケースなど)はどこまでが拉致と言えるのか不明確です。また日本国籍でない拉致被害者、金田龍光さんや高敬美・剛姉弟などはここに入るのでしょうか。
(2)従って誰も検証できない
誰も把握していないとすれば北朝鮮側が「このリストが全員です」と言ってきたらどうするのでしょう。ストックホルム合意の田中実さんと金田龍光さんのときは拒否しているのですから、その延長線上で考えれば例えば「横田めぐみさんと有本恵子さんで全てで、2人は返せるが他はもう死んでいる」と言われたとき、「それなら2人を返す必要はない」と言えるのでしょうか。
(3)北朝鮮に「人道」援助は不可能
これまで多数の脱北者、特に援助を受ける側にいた脱北者が証言しているように、外国からの支援は一番苦しんでいる人には回りません。直接渡してもあとから回収するなどして、結局体制維持に使われてきました。そうなれば逆に北朝鮮の最悪の人権状況をさらに継続させるだけで、見捨てられた拉致被害者はもちろん、他国の拉致被害者や政治犯収容所で苦しんでいる人々、一般の北朝鮮の人々をさらに苦しめることになります。その責任は必ず問わるはずです。
(4)「人道援助」と「政策援助」を混同すべきではない
「人道援助」は見返りなしに送るものです。今回反対しないと言っている援助は拉致被害者の帰国が前提の「政策援助」であり、その場合は失敗すれば責任が問われます。「人道」という言葉でカモフラージュすべきではありません。
本当の意味で「人道援助」を行い、「全拉致被害者の一括帰国」を実現させるのは北朝鮮の体制を変えるしかありません。それ以前に何人かでも交渉で取り返すなら、「一括」はスローガンだけにとどめておくべきです。訪米された方々の労苦には敬意を表しますし、反論もあるでしょうが、拉致被害者を救出しようとしている人間が皆この方針に賛成しているわけではないということは理解してもらいたいと思います。
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