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2023-05-17 00:00
ヨーロッパ諸国のエネルギー政策
舛添 要一
国際政治学者
4月15日、ドイツは全ての原発を停止した。2011年3月の福島第一原発事故を受けて、当時のメルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故停止中の1基を稼働停止にし、残り9基も2022年末までに段階的に廃炉にする方針を決めた。今のショルツ政権には、原発廃止をうたってきた緑の党が政権に参加している。そのこともあって、既定の原発停止を継承したが、ウクライナ戦争によって実施時期が昨年末から今まで延期されていたのである。
電源構成を見ると、2011年には18%だった原子力は、昨年は6%にまで落ちていた。一方、再生可能は20%から44%に増えたのである。しかし、再生可能エネルギーだけで必要な電力を確保できるか否か不明である。そして、不足分を石炭火力で補うようだと、本末転倒になってしまう。安定供給への不安や電気代高騰への心配もあり、世論調査では国民の過半数が原発の停止には反対である。ドイツ政府としては、必要な場合には近隣諸国から電力が輸入できるという安心感もある。それはヨーロッパでは国境を越えて送電網が張り巡らされているからである。
しかし、たとえばフランスやウクライナから輸入するとなると、それは原発によって生み出された電力であり、結局は原発依存のままだということになる。ドイツ政府は、LNG の貯蔵を増やしているが、今年の冬に寒波が到来すれば、ガスが不足する可能性もある。因みに廃炉には約15年が必要だというが、再稼働はしないという。フランスは、電力の7割以上を原子力に頼っており、そのおかげで、ウクライナ戦争の影響を被ることはほとんどなかった。これに対して、ドイツやイタリアは、ロシアの石油や天然ガスに大きく依存していたために、電気料金やガス代の高騰など経済に大きな打撃を受けている。イタリアでは、輸入に占めるロシア産の割合は石油が11%、天然ガスが31%、石炭が56%である。イタリアは1990年までに全原発を廃止したので、ウクライナ戦争による打撃は甚大であった。そのため。エネルギー資源の輸入元を多元化する努力を展開しているところである。
ドイツが最後の3基の原発を止めた日の翌日、4月16日には、フィンランドは、世界最大級の新型原発の営業運転を始めた。そして、フランスは6基、オランダは2基の原発を新設する。また、ベルギーでは2025年に停止を予定していた2基の原発の稼働期間を延長する。ハンガリー、チェコ、ポーランド、スロバキア、ルーマニアなどの中東欧諸国も、原発新設を予定している。このように、エネルギー政策をめぐって、欧州諸国間の足並みの乱れが目立っている。地球温暖化を阻止するための努力は続けるとしても、エネルギーの安定供給は不可欠であり、ウクライナ戦争はそのジレンマをさらに深刻化させているのである。
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