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2023-05-22 00:00
G7 結束固め新興国へ関与強化
鍋嶋 敬三
評論家
先進7ヶ国(G7)首脳会議(広島サミット)は23年5月21日閉幕、その成果は国際秩序を揺るがす中国、ロシアの挑戦に対抗して自由・民主主義国陣営のG7 が結束を固め、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国への関与を強めたことだ。日本は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」(国家安全保障戦略)に直面する。東・南シナ海で一方的な現状変更の動きを強め、ロシアとの戦略的な連携を強化して「国際秩序への挑戦を試みている」中国、ウクライナ侵略戦争1年3ヶ月のロシアは「国際秩序の根幹を揺るがす」。北朝鮮の「最大限のスピードで強化する」核戦力とミサイル開発は「従前より一層、重大かつ差し迫った脅威」となっている。「歴史的なパワーバランスの変化」が生じている国際秩序への挑戦に対処するには同盟国だけでなく有志国との連携強化が不可欠だ。その中核となるのがG 7である。
しかし、それだけでは足りない。中露に対して中立的な立場をとる新興・途上国の大きな固まりがパワーバランスに大きく影響する以上、これら諸国をいかに引きつけるかがG7 の課題になってきたからである。中露が連携を強める一方、米欧間では主張がかみ合わないことがしばしばだ。米国のトランプ前政権は欧州と歩調を合わさず、欧州もフランスのマクロン大統領の欧州防衛のための「戦略的自律性」論のように独自の主張がある。欧州は経済的な関係の深さからも対中露制裁では米国に必ずしも同調しない。中露は米欧の隙間を狙い、分断の拡大を画策、食料やエネルギー、兵器供与などで歴史的にも関係の深いグローバルサウスへの働き掛けによって、国連の対露制裁決議では多数の反対や棄権が出た。放置すれば国際秩序が崩れてしまうという危機感でG7 が一致した。ウクライナのゼレンスキー大統領はG7の最中に広島入りしG7だけでなく、インドやブラジルなどグローバルサウス諸国との拡大会合にも同席し、ロシアの「残虐な侵略戦争」が「全世界への脅威」であることを直に伝えることに成功した。「ゼレンスキー効果」は先進国とグローバルサウスをつなぐ象徴として広島サミット最大の成果と言っても良いだろう。G7首脳はウクライナに対して「揺るぎなき支援」を再確認した。米国が首脳会議中にF16 戦闘機の同盟国経由の供与を承認したのもその表れだ。
「核軍縮・不拡散の努力の重要性」も再確認した。首脳がそろって原爆慰霊碑に献花、原爆資料館を視察したのはかつてないことで、ロシアによる核の脅しの重大性を身を以て感じる機会になった。岸田文雄首相が閉幕後の記者会見で核軍縮の「広島ビジョン」について熱弁を振るったのも、手応えを実感したからであろう。地域情勢では中国に関する記述が注目された。「東・南シナ海への深刻な懸念」の表明は従来通りだが、その前段で「建設的かつ安定的な関係構築の用意」があり、「国際的な課題で協力する必要」を明記した。制裁一辺倒ではなく対立と協調のバランスに腐心した様子がうかがえる。
経済安全保障についても共同文書をまとめたのはG7 サミットで初めてだ。中国を念頭に「経済的威圧を抑止し対抗する」ため、重要物資の供給網(サプライチェーン)構築の方針を明記した。「経済的依存関係を武器化する」リスクに対して、新興国とも連携する構図だ。G 7 と同時期に中国がロシアの裏庭とも言える旧ソ連構成国の中央アジア5ヶ国首脳を中国に集めて首脳会議を開き、影響力拡大を誇示した。G7はウクライナ支援をはじめ食料、エネルギー、供給網のリスク拡大、信頼できる人工知能(AI)の実現に向けた国際ルール作りなど広範な分野を含む国際秩序の安定・維持にどう向き合うか。サミット合意をいかに結実させることができるか、岸田首相はじめG7首脳の責任は大きい。
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