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2007-11-05 00:00
円相場の趨勢的下落は国益を損う
鈴木淑夫
元衆議院議員・鈴木政経フォーラム代表
円相場について正確な認識を持つことは、国内の経済政策や国際経済情勢、ひいては日本の国益を考える上で大切なことである。円相場を「対米ドル」の「名目値」で見ると、2005年以来この3年間に、105円前後から125円近くまで2割ほど円安傾向を辿り、今年の7月末から8月中頃に至り、突如「円安バブル」の崩壊で急激な円高となり、一時111円台になった後、現在は115円前後で、2005年に比べ約1割下落した水準にある。しかし、経済に与える為替相場の影響を正確に考えるには、「対米ドル」だけではなく、日本の貿易相手国のすべての通貨に対する円の為替相場を、貿易取引のウェイトで加重平均した「実効」レートで見なければならない。また、国際競争上の有利不利を正しく判定するには、「名目値」ではなく、日本と相手国の物価動向で調整した「実質値」で見なければならない。
「実質・実効」レートで見ると、「円安バブル」崩壊後の現時点までの3年間に、円相場は1割ではなく2割も下落している。もっと長期でみると、1995年始め頃をピークに円相場は4割も下落し、1985年のプラザ合意前の水準にまで下がってしまった。対米ドル名目円相場の動きが、これ程まで実質・実効レートと違う理由は、第一に、「対ユーロ」、「対英ポンド」、「対アジア諸国通貨」などの円相場が、「対米ドル」以上に下落しているからである。第二に、日本では物価が下落し、相手国では物価が上昇しているため、「実質値」の円安は、「名目値」の円安よりもはるかに大きいからである。
この実質・実効円相場の大幅下落は、輸出に偏った日本経済の成長をもたらし、輸出関連大企業と内需関連中小企業、中央と地方、企業と家計などの大きな格差を生み出している。また日本の弱い通貨と超低金利によって、円建国際資本市場は崩壊し、日本の対外資産運用は高いリスクにさらされている。家計にとっても、輸入品の値上がりと海外旅行コストの上昇は生活上不利である。企業にとっても、対外的な市場価値が下落し、海外企業に買収されるリスクが高まっている。そして、日本全体を見れば、1人当たりGDPの国際順位がどんどん下落し、ひと頃世界一であった順位が、今や20位近く迄下がっている。この経済力の相対的低下は、日本の国際政治上の発言力を弱めている。このような円相場の現状は、「日本経済にとって居心地のよい、望ましい水準で安定している」とは、とても言えるものではない。
米国政府が円安を非難しない理由を政治経済学的に考えると、(1)弱い円の下では日本の経常黒字が米国に流入し、米国の経常赤字を安定的にファイナンスしてくれるので居心地がよい、(2)グローバル経済の下で、米国企業が市場価値の安い日本の優良企業を買収し易い、の2点が挙げられる。実質・実効レートの下落とは、自国品を安く売り、外国品を高く買う交易条件の悪化である。それで稼いだ黒字で、日本は米国の経常収支赤字をファイナンスし、発展を支えている。この「お人好しでコッケイな姿」(野口悠紀雄)が、日本の国益を損なっていることは言うまでもない。名目為替相場は短期・中期のバブルの連続であり、そのために経済学のバブル実証研究の対象として最適なのであるが、バブルの発生と崩壊を貫く実質・実効レートの長期趨勢を正しく認識し、その政治経済学上の意味を考えることも又、大切である。
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