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2024-01-17 00:00
民主主義を問う米国の大統領選挙2024
村上 裕康
ITコンサルタント
2024年11月の米国大統領選挙まで1年を切った。予備選挙は1月15日のアイオワ州の共和党党員集会を皮切りに1月23日のニューハンプシャー州予備選挙と続く。一方、民主党は2月3日のサウスカロライナ州の予備選挙から始まる。3月5日のスーパーチューズデイで予備選挙のヤマ場を迎える。全米50州の予備選挙あるいは党員集会で各州の人口に応じて代議員を選び、夏の全国党大会において、代議員による投票で両党の大統領候補を正式に指名する。共和党の全国党大会は7月15~18日に、民主党の全国党大会は8月19~22日に開かれる。有権者が投票する本選挙は11月5日に行われる。有権者の投票結果は、州ごとに集計され、勝利した候補がその州の「選挙人」を獲得する。「選挙人」は候補者に投票すると誓った人のことで、投票や指名によって民主・共和両党から選ばれた538人である。12月16日に行われる選挙人による投票で、過半数の270人の選挙人を獲得した候補が、いくつかの認証プロセスを経て、大統領に選ばれる。2025年1月20日に新大統領の就任式が行われる。共和党の大統領候補としてトランプ前大統領、デサンティスフロリダ州知事、ヘイリー元国連大使、他が上がっているが、世論調査によるとトランプ前大統領が6割近くの支持を集め、他の候補を圧倒している。一方、民主党の大統領候補は、現時点で現職のバイデン大統領の他に有力な候補は出ていない。再選を目指す民主党のバイデン大統領と、返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領の選挙戦になるという見方が一般的であり、2人の選挙戦になると仮定した場合、最近の世論調査によると、バイデンが44.9%、トランプが45.4%とほぼ互角に戦っている。
ジェトロのビジネス短信(11月7日)は、ニューヨークタイムズとシエラ大学による世論調査の結果を引用して、激戦州でトランプが優勢と報道している。激戦州といわれるネバダ、アリゾナ、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシンの6州において、「今日大統領選が実施されたらバイデンとトランプのどちらに投票するか」、という問いに対して、トランプが6州のうち5州でバイデンを上回った。同じくジェトロのビジネス短信(11月15日)は、英国の調査会社スタック・データ・ストラテジー社による調査結果を引用して、大統領選が今日行われた場合、トランプが獲得する選挙人は292人、バイデンは246人で、トランプが勝利すると予測した。スタック・データ・ストラテジーの調査によると、一般投票ではトランプは49%対47.8%の差で負けたにもかかわらず、選挙人投票ではバイデンを292対246で破った。激戦州のアリゾナ、ジョージア、ペンシルバニア、ウィスコンシンでトランプがリードして、選挙人投票ではトランプの勝利を予測している。トランプが大統領であった時も、またバイデンに選挙で敗れ引退した後も、トランプほどマスコミに叩かれた人物はいない。型破りで、ストレートで、挑発的な答弁はマスコミに嫌われた。2020年の大統領選での敗戦を覆そうとして起こった議会襲撃事件でトランプ非難はピークに達した。かつて、トランプほど政敵のターゲットになり、攻撃を受けた人物はいない。大統領職にあっては、ロシア疑惑およびウクライナ疑惑で弾劾された。弾劾裁判で無罪となるが、マスメディアは連日のようにトランプに関する偽情報を流し続けた。民主党サイドによる証拠の偽造も明らかになっている。また、党派に中立であるはずの司法に偏りがあったことも、ロシア疑惑の調査をしたダーラム特別検察官の最終報告書で指摘されている。
何としても、トランプを大統領候補から引きずり落としたい民主党は、なりふりを構わない法廷闘争を仕掛けている。2023年の3月以降、立て続けに4つの嫌疑でトランプを起訴した。①元ポルノ女優に対する「口止め料」の支払いをめぐるビジネス記録の改竄、②機密文書を自宅に持ち出し、その取り扱かいをめぐるスパイ防止法違反他の罪、③2021年1月6日の連邦議会襲撃事件でアメリカを欺くための共謀を図った罪、④2020年の大統領選挙でジョージア州の選挙結果を不正に覆そうとした罪、の4件である。選挙イヤーの2024年、起訴された4つの事件で公判が始まる。トランプは、4つの公判スケジュールをこなしながら、予備選挙を戦うことになる。「連邦議会襲撃事件」に関わる事件の初公判はスーパーチューズデイ前日の3月4日に予定されている。「不倫口止め料」事件に関わる公判は3月25日に、「機密文書」事件に関わる公判は5月20日に、予定されている。4つの起訴の中で、トランプにとって最も重要なのは「連邦議会襲撃事件」に関わる公判である。なぜなら、「トランプは議会を襲撃して大統領選を覆そうとした」という民主党が偽装した筋書きが広く信じられているからである。議会襲撃事件の公判はワシントンDCの連邦地方裁判所で行われ、オバマに任命されたチュトカン判事が担当する。ワシントンDCは、92%が2020年の大統領選でバイデンに投票したという民主党の党派色が強い地域であり、陪審員は地域の名簿から無作為に選ばれるとはいえ、民主党に有利な構成になると予想される。チュトカン判事は3月4日を初公判日に指定しているが、このまま日程通りに裁判が進行すれば、トランプは裁判で負けて有罪になることも予想される。有罪になれば、大統領選の結果にも影響するだろうといわれている。
2021年1月6日の議会襲撃事件を巡って、トランプは弾劾されるが弾劾裁判で無罪となる。その後、下院民主党が主導して設置した特別委員会は、事件の真相を調査し、「トランプの公職就任禁止を勧告する」という内容の最終報告書をまとめた。ジャック・スミスはこの報告書を下書きにトランプを起訴した。「トランプは2020年の大統領選挙で不正選挙があったと虚偽の主張を繰り返し、選挙結果を覆そうと企てた」として、「米国に対する詐欺の共謀」、および「公的手続きに対する妨害の共謀」など4つの罪で起訴した。「議会襲撃事件」は、トランプとバイデンの両陣営にとって、米国の民主主義をかけての闘いである。トランプは、2020年の大統領選は「盗まれた選挙」であり、米国の民主主義は損なわれたとトランプは主張する。多くの共和党の仲間が「盗まれた選挙」という主張をトーンダウンさせていく中で、トランプは最後まで「盗まれた選挙」という主張を取り下げることはなかった。「選挙」は民主主義の礎であり、そこに不正があったという主張を曲げることはなかった。一方、バイデンは「トランプは選挙に不正があったと偽の情報を流し、議会襲撃事件を企て選挙結果を覆そうとした」と非難し、「議会襲撃事件は、米国の民主主義に対する前代未聞の攻撃である」と非難した。「不正選挙」を裏付ける証拠や証言は膨大にある。しかし、FBIはこれらの証拠や証言を裏付ける捜査に消極的であり、これらの「不正選挙」の証拠や証言に法的根拠は与えられなかった。選挙不正に対する膨大な証言は、バイデン政権の司法省やFBIに黙殺され、マスメディアは「選挙不正」について疑いを挟むことはなかった。莫大な選挙資金を供出し不正を後押しする民間団体、不正を黙殺する司法、そして真実を隠蔽するマスメディア、3点セットが揃ってアメリカの民主主義が損なわれているのだ。しかし、国民は選挙に不正があったことに気が付いている。そうでなければ、議事堂襲撃事件を仕掛け選挙結果を覆すような人物を再び大統領に復帰させようと誰が思うだろう。
国民の選挙にたいする信頼は低下している。最近実施されたCNNの世論調査によると、「2020年のバイデンの勝利は不当なものだった」と考える共和党員および共和党寄り無党派層の割合は70%近くに上昇しているという。アメリカ人全体をとると、38%が「バイデンの当選は不当であった」と考えている。大多数のアメリカ人はFBIを信用していない。有権者の多くが大統領選挙へのFBIの介入を懸念しており、FBIの改革が必要であると述べている。ハーバード大学CAPSハリスの世論調査によると、回答者の70%が、FBIや情報機関による選挙への介入を非常に、あるいはある程度懸念していると回答した。議会襲撃事件において、政府機関の関与が疑われている。議会襲撃事件の暴徒の中に200人近くのFBIやDHS(国土安全保障省)からの政府職員や協力者が紛れ込んでいたという証言もある。また、これらの政府職員が暴徒を国会に招き入れ、暴動を扇動していたという証言もある。2024年の大統領選挙は、トランプにとって民主主義を取り戻すための選挙である。トランプとバイデンの闘いは、米国の民主主義をかけての闘いである。大統領選を11月に控えて、トランプを排除しようという法廷闘争は熾烈である。選挙戦と同時並行で法廷闘争が進められているが、以下にそのいくつかを紹介する。
トランプの弁護団は、議会襲撃事件に関して、「前大統領は盗まれた選挙を調査する義務を果たしたものであり、前大統領は公務の範囲内で行動していたもので、大統領の免責特権が適用される」と異議を申し立てた。議会襲撃事件の担当判事チュトカンは、この訴えを却下するが、トランプ弁護団はこれを不服として控訴した。トランプの控訴を受けて、チュトカンは訴訟手続きを一時中断した。スミス特別検察官は控訴裁判所の判断を待っていては、3月4日の初公判が遅れるとして、最高裁で直接審理するよう求めた。しかし、最高裁はスミス特別検察官の要請を却下して、控訴裁判所の判断を待って審理する方針を伝えた。この決定により、議会襲撃事件の公判スケジュールが遅れるのはほぼ確実である。控訴裁判所がトランプに不利な判断を下せば、トランプは再審理を求めることができ、その後90日以内に最高裁判所に上訴することができる。公判スケジュールが大統領選以降にずれ込む可能性が高い。トランプが選挙で勝ち、公判が25年以降にずれ込めば、現役大統領として裁判を有利に進めることができる。
コロラド州の最高裁は、大統領選挙の同州予備選にトランプが出馬する資格を剥奪する判断を下した。トランプが21年1月6日の議事堂襲撃事件に関与したと認定し、反乱に関わったものが官職につくことを禁じた憲法修正第14条3項に抵触するとした。同様な訴えは、ニューハンプシャー州、をミシガン州、ミネソタ州、オレゴン州、メーン州などでも起こされている。トランプ側は、コロラド州の判断を不服として、上訴した。連邦最高裁判所はトランプの上訴を受理して審理に入ることを決定した。口頭弁論は2月8日に行われ、判断は全国に適用される。最高裁は3月5日のスーパーチューズデイを前に判断を下す可能性が高い。2020年の大統領選挙でジョージア州の選挙人16人を巡る争いで、バイデンが僅差で勝利した。しかし、トランプ陣営は不正選挙に関する嘘を広め、ジョージア州当局者に選挙結果を覆すよう促した。ジョージア州フルトン郡の地方検察官ファニー・ウィリスは、トランプおよびその同盟者18人を選挙妨害を共謀した罪で起訴した。しかし、ウィルスは恋人関係にあったネイサン・ウェイドをフルトン郡特別検察官に任命し、トランプおよびその同盟者の訴追にあたらせた。ウェイドの任命は正当な承認を得たものか、ウェイドに支払われた多額な報酬は正当なものであったのかが問われた。トランプの共同被告人であるマイケル・ローマンは告訴を取り下げ、ウィリス、ウェイドおよび地方検事局全体を事件から外すべきだと主張している。共和党のマージョリー・テイラー・グリーンはウィリスとウェイドに対して訴訟を起こした。
トランプは「議会襲撃事件」で、1月6日の選挙結果を集計し認定する手続きを妨害したということで、「公式手続き妨害」(合衆国法18条セクション1512C2)の罪が問われている。ジョセフ・フィッシャーは議会襲撃事件で逮捕されたトランプ支持者の一人であるが、議事堂警察に暴行した罪で起訴され、検察はさらに「公式手続き妨害」に違反した罪でも起訴した。セクション1512C2の罪に対する罪は最高20年の量刑が課され、フィッシャー被告は暴行の罪は認めたものの、政府によるセクション1512C2の適用範囲は広すぎると主張し、裁判で係争中である。地方裁はフィッシャーの訴えを認めたが、控訴裁判所は政府の主張を認めて、妨害はより広範囲に適用されるべきであると裁定し、地方裁の決定を覆した。フィッシャーは解決を求めて最高裁に上告した。最高裁はフィッシャーの事件を審理することを決定した。フィッシャーの事件は、フィッシャー個人の問題に留まるものではない。議会襲撃事件で1000人以上のトランプ支持者が逮捕され、半数以上が有罪判決を受け、200人以上が重罪で刑務所に送られている。プラウドボーイズのリーダー格であったタリオ被告には禁固22年の刑が科せられ、オースキーパーズのローズ被告には禁固18年の刑が科せられている。彼らには、暴力に対する刑に加えて「公式手続き妨害」違反の罪が科されて、20年近くにわたる量刑が科されたのである。トランプ大統領も「公式手続き妨害」の違反があったとして起訴されているが、フィッシャー事件に対する最高裁の判断はトランプ大統領の裁判および議会襲撃で量刑を科された犯人の裁判にも影響が及ぶと考えられる。議会襲撃事件は政治的に異例な事件で、全世界でも大きく取り上げられたが、暴力事件としては非暴力的であった。あれだけの事件で心臓発作や自殺で亡くなった警官4名を除くと、 死者は警官に射殺されたアシュリーバビット一人だけである。一方、BLM騒動では、300人程度が起訴されたというが、暴行、放火、殺人未遂、法執行妨害、爆発物の使用、物品破壊、銃の不法所持など重罪で有罪判決を受けた。BLM騒動では35人程度が死亡し、1500人以上の警官が負傷したという。しかし、暴動を主導したアンティファのメンバーはほとんど告発されていない。右派活動家であるプラウドボーイズあるいはオースキーパーズに対して科せられた量刑は、左派活動家であるアンティファに対する量刑をはるかに凌ぐ。しかも、暴力の程度はアンティファのほうが甚大である。検察は議事堂襲撃事件の活動家に対して「公式手続き妨害」(18条セクション1512C2)を適用し、その妥当性について争われているが、最高裁はフィッシャーの事件の審理をすることを決めた。
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