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2024-03-27 00:00
大統領選挙直後のモスクワでテロ発生と政権の問題点
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
3月22日、モスクワのコンサートホールにおいてテロが発生した。ロシアのモスクワといえば、クレムリンにプーチン大統領がいて、ロシアの中心である。その場所にかなり多くのテロリストが首都の中に入り、そして犯罪を起こし100名以上(今のところ115とか130という数字が出ているが結局どれが本当の数字だかよくわからない)の被害者が出ているということになる。旧東側諸国の国というのは、あまりテロのあるイメージがない。特に、モスクワなどはプーチンの強権政治があるので、犯罪などはかなり厳しく取り締まられており予防的に操作が行われているような感覚がある。特に日本人は戦前の「特別高等警察」の思想統制的な捜査活動があったことなどから、捜査令状もなく家の中に入り、冤罪でも拘束して拷問して自白させてしまうというようなイメージがあり、そのことの反省に立って日本国憲法には、令状主義や罪刑法定主義ということがしっかりと書かれている。もちろん家の中に勝手に官憲が入らないということなどは「城の法理」というような法理があり、そのことによって厚く個人の権利が守られているのである。しかし、旧共産圏の国は基本的人権が存在しないので、そのような国民を守る法理が存在していない。その為に「政府を守る」為には、思想統制もするし、表現の自由もない、当然に家庭内のプライバシーなども存在しない状態になっているということになるのである。
その状態でありながら、実はモスクワというのはかなり様々なテロが存在する。私が覚えているだけでも2002年にモスクワの劇場占拠があり、2010年にはモスクワの地下鉄でテロ、2011年にはモスクワ州にあるドモジェドヴォ空港で自爆テロ、そしてモスクワではないが2017年にはサンクトペテルブルグで地下鉄のテロが起きている。特にサンクトペテルブルグの地下鉄テロは、公式の発表ではキルギス系ロシア人で23歳のイスラム教過激派であるとされている。今回と同じ枠組みである。このように考えると、プーチン大統領の政権は、間違いなく、中央アジア系のイスラム教原理主義者の集団に倣われておりテロの標的になっていることがよくわかる。
今回の3月22日のコンサート会場を襲撃したテロに関してはイスラム国(IS)のホラサン州という集団が、犯行声明をテレグラムというSNSに出している。この中には、ホラサン州から行ったテロリストの人々が無事に帰ってきたという事やその写真、そしてコンサート会場の中の動画で「ロシア人はすべて殺せ」と言っているような動画も公開されている。基本的に、ここまで出ていれば、このホラサン州が犯人であることは明らかである。しかし、ロシア政府は、「ウクライナ方面に逃げようとした」「ウクライナが裏で糸を引いている」などという主張をしている。また、このテロ情報に関しては事前にアメリカやイギリスなどが情報を察知し、人命重視の立場からテロ情報を流してロシア政府に対応を促したが、その時にはロシア政府は「アメリカが偽のテロ情報を流して脅迫している」と全く相手にしなかった。今回のテロは、ホラサン州であることは明らかである。これをなぜプーチンはウクライナを黒幕にしなければならないのか。
一つ目は、国民をウクライナ戦争に向けなければならないこと。このことによって、ウクライナへの恨みを高めて士気高揚を図るということだ。ここまでは誰でもわかる。二つ目は「軍隊に余裕がない」ということだ。実際に国境警備は軍隊の役目である。しかしウクライナにすべてをまわしてしまっていることから、国境警備や首都警備に軍を回せないという事情がある。これは「プーチンが主張するウクライナと戦争をしていてもロシアの軍には余裕がある」という主張を完全に覆すものであり、国民公約と完全に反対になってしまっているということになる。第三に「中央アジアからの徴兵ができなくなる」ということになる。すでに報道があるようにロシアは兵員不足からアフリカやインドなどから、騙したり金で雇ったりして兵員を集めていた。先日、インドから騙されて連れてこられたというような人が出てきている。今回の事件で中央アジアからの入国を規制したり、又は入国管理を厳しくするということになれば、ウクライナで兵員不足になる。そのことを避けるためには、ウクライナに責任転嫁し、中央アジアは敵ではないというようなことにしなければならない。第四に、ロシア国民に危険である、テロの被害にあうかもしれないというようなことを心配させないということである。つまり、ウクライナと戦争をしているから、このようなテロがおきたということにしなければならない。そうでなければ「プーチンが国民を守ることができない」ということになってしまう。これらのことから、事実をゆがめてしまうしかないという決断に至ったものと考えられる。逆に言えば、それだけウクライナとの戦争も窮地に立たされてぎりぎりのところで戦っているということになるのではないか。このテロで、最も被害にあったのは、大統領に当選したプーチンかもしれない。
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