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2024-06-28 00:00
「黄金の3年」は幻に終わるのか?
鍋嶋 敬三
評論家
2024年9月末に任期切れを迎える岸田文雄首相の自民党総裁の「再選」に黄信号が点滅し始めた。国会閉幕時の各種世論調査で内閣支持率が危険水域とされる20%台を記録し続けている。主因は自民党派閥の政治資金パーティー収入の不記載事件を契機とする「政治とカネ」問題への国民の不信感の高まりだ。首相が指導力を全く発揮せず、責任逃れの態度に終始したことへの不満が頂点に達した。共同通信の世論調査では、総裁選での「再選」を望むのは10%に過ぎず、首相として「できるだけ早く辞めてほしい」が36%超を占めた。読売新聞の調査では政治資金規正法改正について公明党に譲歩を重ねる首相の「指導力不足」の声が78%にも達した。
自民党内では首相への不満が渦を巻いている。地方組織や代議士会で首相批判の声が公然と上がり、新聞でも「岸田降ろし活発化」と報じられる有様である。菅義偉前首相はインターネット番組や雑誌のインタビューで責任を取らない岸田首相の姿勢を強く批判し、「政権交代の危機感」まで訴えたほどである。民主党政権時代の「失われた3年」を思い出してほしいという切羽詰まった気持ちが伝わってくるようだ。各地の選挙で連敗を喫しており、党内にこのままでは衆議院総選挙は戦えないという「恐怖感」が強まってきたことは無視できない。
翻って見ると、2年前の第26回参院選挙で自民党が大勝、憲法改正に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主党の4党や無所属を加えた「改憲勢力」が国会の発議に必要な3分の2以上の議席を維持した。これで自公連立政権は「黄金の3年」を手にしたともてはやされた。自民大勝を受けて岸田首相は記者会見で自民党の結党以来の党是である憲法改正に民意が示されたとして「できる限り早く(国会)発議に至る取り組みを進める」と述べ、国会の改憲論議を引っ張っていく意気込みを語ったものである。岸田首相自身は「(『黄金の3年』という)考え方は全くとっていない。絶えず危機感と緊張感を持って臨んでいきたい」と謙虚な姿勢の中にも決意を示していた。しかし、この2年間、国会での憲法審査会の実質審議は、改憲反対の基本姿勢を崩さない立憲民主党の抵抗が根強く遅々として進まない。首相自身が強くリーダーシップを発揮して国会を動かす努力をした形跡もうかがえない。「黄金の3年」は早くも「幻(まぼろし)」になったかのように見られるのだ。
起死回生のため首相は9月の総裁選、1年後の衆院議員任期満了の日程をにらんで、なお衆院解散・総選挙に賭けようとするだろう。国会閉幕に合わせて所得税など定額減税、電気・ガス料金の軽減策などの物価高対策を打ち出した。7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(ワシントン)やドイツ訪問、東京での太平洋島嶼首脳会議開催、8月はカザフスタン、モンゴル訪問などの外交日程を組み、これらの成果を政権浮揚につなげようとしているが、効果は疑問だ。はや政権の「賞味期限」が切れかかっているかのように見える。岸田政権の最大のアキレス腱は首相自身の指導力そのものにある。人柄は真摯で真面目なことは大いに評価出来る資質である。しかし、それだけではこの動乱の世界で内政に経済財政、外交、安全保障政策に国民を引っ張っていくには不十分だ。今国会で最大の課題となった政治改革のために、改革案を自ら政治家の言葉でほとばしる熱情を持って議員を、そして国民を説得する力量が必要であった。官僚が書いた原稿を読むだけなら誰にでもできることだ。残念ながら人心収攬の「カリスマ性」に欠けている、と言えば酷か。岸田首相は憲法改正という歴史に残る偉業を果たせるだろうか?
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