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2024-08-15 00:00
「一寸先は闇」の世界に対応するには
鍋嶋 敬三
評論家
岸田文雄首相が8月14日、意表を突く自民党総裁選挙への不出馬を記者会見で発表した。9月の総裁戦後、首相を退任する。「政界一寸先は闇」を自ら演出した。退陣の背景は自民党派閥の政治資金パーティー収入の不記載事件など自浄能力の欠如に国民が背を向けたからだ。岸田内閣の支持率は20%台を低迷し「次の総選挙は戦えない」という自民党議員の募る不安を抑え切れなかった。お盆休み中の突然の退陣表明に政局は一気に緊迫した。しかし、世界は至る所で「一寸先は闇」が広がっている。大統領選挙戦の最中、米国のバイデン大統領が指名党大会を目前に突然指名を辞退しハリス副大統領が黒人・アジア系、女性として初めての大統領候補に躍り出た。返り咲きを狙うトランプ前大統領との一騎打ちは予断を許さない。
G7(先進7ヶ国)議長国のイタリアでは総選挙で「極右」勢力が伸長、政権交代した。欧州議会選挙でも右傾化が明らかになり、内向き志向にウクライナ侵略3年目の対ロシア政策で欧州の結束が揺らぐ懸念が強まる。英国は7月の総選挙で労働党が圧勝して14年ぶりに保守党から政権を奪還した。もっとも米英間の「特別な関係」に変化はない。米欧関係の安定は自由・民主主義陣営の要だが、米国で「もしトラ」が起きれば不安が高まることは避けられない。中東ではガザ地区最高指導者の殺害でイランとイスラエルの対立が先鋭化、危機が中東全域に広がる懸念も強い。ロシアのプーチン大統領の訪朝で露朝間の「軍事援助」を明記した条約が署名された。露朝の対中国関係にも微妙な影響を及ぼすとの観測もあり、日米欧と対立構図にある露中朝関係の動向が注目されるゆえんである。
岸田政権の「通信簿」をつけるのは早いが、外交、防衛、安全保障政策については安倍晋三ー菅義偉各政権の路線を受け継いで実績を上げてきたことは評価しておきたい。その集大成が国家安全保障戦略など防衛3文書の決定(2022年12月)である。「基盤的防衛力構想」から脱却して、戦後安全保障政策の「大転換」を宣言した。自分の国は自分の力で守り抜くための「反撃能力」の明記など、防衛力の抜本的強化とそのための防衛費の大幅増を決定した。その背景は「世界的なパワーバランスの変化」だ。米国のリーダーシップの後退、中国の軍事力の強化は「深刻な事態」で「これまでにない戦略的な挑戦」とする基本的な認識が定着したことだ。中露の戦略的提携、中国による台湾攻略に向けた軍事動向、北朝鮮の核・ミサイル能力の驚異的な進展などがある。これに対応して日米間で「拡大抑止」を軸に統合作戦能力の強化へと動き出した。日米だけでなくアジア・太平洋では日米韓、日米豪比など同盟間の協力強化、日本と英国、ドイツ、フランスなど欧州、NATO(北大西洋条約機構)との協力強化に踏み出したこともこれまでにないことである。
国際情勢はウクライナ戦争の「終結」の仕方によってパワーバランスや新たな秩序の形成に向け深甚な影響を与えることは間違いない。日本はどう動くべきか?「和平」の実現に果たすべき役割について積極的に関与していく必要がある。そのためにはウクライナはもとより、米欧を含む支援国との協力関係を大胆に進めるべきである。岸田首相がウクライナを電撃訪問、さらにG7広島サミットにもゼレンスキー大統領を招いたことは大きな意味があった。しかし、軍事的側面を無視した「和平」はあり得ない。日本は国際的な役割を果たすためにも、自衛隊の法的役割を明確にすべきだ。岸田首相がやり残した最大の課題は自衛隊を憲法に明記する憲法改正である。来たるべき総裁選挙で自民党の党是である憲法改正への具体的な工程表を候補者が明示するよう求めたい。
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