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2024-10-02 00:00
(連載1)トランプ前大統領の法廷闘争
村上 裕康
ITコンサルタント
民主党と共和党の亀裂は、米国をほとんど修復不可能なほどに分断し、大統領候補にハリス副大統領を擁する民主党とトランプ前大統領を擁する共和党の争いは一層激しくなっている。両者は、リベラルな価値観に根差す進歩主義と伝統的価値観を重視する伝統主義という点で対立している。前者はエリートのグローバリストが主導する一方、後者は米国第一主義を唱導するポピュリストが主導する。イデオロギーの対立は米国を分断し、政治的な対立となり、分断をますます深めている。民主党のエリートはワシントンの官僚であり、アカデミー、芸術、文化のエリートであり、主流メディアである。進歩主義の民主党のエリートにとって、伝統を重視するポピュリストのトランプは排除の対象であった。大統領選挙2016において、共和党のトランプが民主党のヒラリー・クリントンを激戦の末に打ち負かすと、大統領選挙にトランプとロシアの共謀があったとしてトランプを非難した。ロシア疑惑事件はトランプを排除しようとする民主党が仕組んだ事件であり、司法省やFBIを使ってトランプの疑惑を捜査した。民主党に迎合する主流メディアは、トランプのスキャンダルを連日のように報道し、国民に「トランプは悪い」という印象を定着させた。ロバート・ムラー特別検察官による報告書(2019年4月)はトランプとロシアの間に共謀はなかったことを明らかにした。また、ジョン・ダーラム特別検察官が公表した報告書(2023年5月)は、「司法省とFBIはロシア疑惑の捜査に関連して、法への厳格な忠誠という重要な責務を果たしていなかったと」とし、「捜査を開始する十分に正当な理由はなかった」と指摘した。ダーラムの報告書は、トランプのロシア疑惑を捜査するにあたって最初から十分な確証がなかったとして、「法執行権が政治から独立していないこと」を指摘した。また、ヒラリーの選挙干渉疑惑については捜査されなかったとして、「2重基準があったこと」を指摘した。ロシア疑惑を皮切りに、「ウクライナ疑惑」、「1月6日の議会襲撃事件」とトランプは任期中に2度も弾劾されている。両事件とも、トランプは弾劾裁判にかけられ無罪になっている。民主党によるトランプの糾弾は続く。大統領選挙2024においてトランプを大統領候補から排除するために立て続けに4件の刑事事件で起訴された。これらの起訴に対してトランプは無罪であると主張し、これらの起訴は「司法機関の武器化」であるとバイデン政権を非難した。「司法機関の武器化」とは、司法機関(司法省や裁判所)が政治的目的のために利用されることを指す。これは、司法の独立性や公正性を損なう行為であり、敵対勢力を攻撃したりするために司法権を乱用することを含む。
ロシア疑惑は民主党が司法機関(司法省やFBI)を使ってトランプを捜査した「司法機関の武器化」の事例である。特別検察官ダーラムによる報告書は、ロシア疑惑に関連して「法執行権が政治から独立していないこと」、またヒラリーの選挙干渉疑惑との比較において「2重基準があったこと」を指摘した。民主党政権による「司法機関の武器化」、司法省による「2重基準」の適用、「捜査権限や検察権限の乱用」は「法の支配」に対する重大な懸念を引き起こした。ジョン・ダーラム特別検察官の報告書や下院司法委員会、下院監視・説明責任委員会、政府の武器化に関する特別小委員会による最近の報告書は、こうした懸念を裏付ける事例を公表している。トランプの機密文書持ち出し事件で、2022年11月司法長官メリック・ガーランドは特別検察官にジャック・スミスを任命し、事件の捜査にあたらせた。事件の捜査を主導したスミスは2023年6月8日トランプを機密文書の不法所持および捜査妨害など37件の罪状でトランプを起訴した。トランプは、大統領候補から排除するための「司法機関の武器化」であるとバイデン政権を非難した。「司法機関の武器化」は司法の独立性や公正性を損なう行為である。司法省には「法の支配」を守るための「法執行に関する独立性基準」を持っている。すなわち、法執行の独立性を保証するために、政権からの独立、特別検察官制度、司法省の倫理規定を持っている。例えば、機密文書事件では、バイデン政権の意向を受けてトランプの捜査が行われ起訴された疑いがある。特別検察官制度は政治的な影響を受けないようにするため、司法省から独立した権限を持つ特別検察官が任命されることがある。機密文書事件では、ジャック・スミスを特別検察官に任命したプロセスで憲法違反があったとして、アイリーン・キャノン判事は機密文書事件の起訴を棄却している。現バイデン政権の司法省(DOJ)はポリシーステートメントとして、「司法省の使命は、法の支配を守り、国の安全を維持し、公民権を保護することです。この使命を遂行するにあたり、司法省は職員の多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティの向上に取り組んでいます。」と述べている。
「法の支配」とは「専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという考え方」であり、「統治される側だけでなく、統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方(ウィキペディア)」である。高次の法(higher law)という考え方は政府が施行する法律が公平性、道徳、正義といった普遍的な価値観に従わなければならないというものである。しかし、公平性、道徳、正義という高次の法の解釈や適用は、政権の影響を受ける。例えば、オバマは公正、多様性、平等(equity)、包括を社会的正義とした。オバマの正義は、例えば人種の多様性という点から政府高官の役職を人種の比率に従って配分するという政策として実装された。また、オバマは性的指向や性的自任に基づいて差別することを禁じる大統領令を施行した。政権によって「正義」の解釈に違いがあるとすると、「法の支配」の解釈にも影響を及ぼす可能性がある。司法省は法執行の独立性を保証するために、司法省の倫理規定を持っているとされるが、政権によって「正義」の解釈に違いがあるとすると、倫理規定にも影響を及ぼす可能性がある。例えば、議会襲撃事件で逮捕された右派系の過激派のオースキーパーズやプラウドボーイズの犯人には重罪で逮捕された暴徒の数は200人以上にのぼり、20年以上の禁固刑を言い渡された者もいる。一方、BLM(ブラック・ライブズ・マター)騒動は暴動としては遥かに規模が大きいが、左派過激派のアンティファの暴徒が逮捕されているが、告発の95%が取り下げられているという。この事例では、政権側の正義がどこにあるかによって、左派と右派の暴徒に対して課された量刑が違った可能性がある。大統領選挙2024を目前に控えた2023年、トランプは立て続けに4件の刑事事件、①不倫口止め料事件、②機密文書持ち出し事件、③ジョージア州選挙介入事件、④議事堂襲撃事件、で起訴された。連邦検察官が元大統領を起訴するのは歴史上はじめてのことであり、また敵対政党の大統領候補を起訴するのも歴史上はじめてのことである。以下、トランプに懸けられた嫌疑に対して繰り広げられる法廷闘争の様子を紹介する。
トランプはフロリダ州のマール・ア・ラゴの別荘価値を不当に高く評価し、銀行から不当な好条件で融資を得たとして、ニューヨーク地裁から賠償金4億6400万ドルの支払いを命じられた。この訴訟は、ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官によって起こされ、ニューヨーク地裁のエンゴロン判事が判決を下した。レティシア・ジェームズは、2018年のニューヨーク州の司法長官選挙に「トランプを起訴して有罪にする」を公約に掲げて立候補し、黒人女性として初めて司法長官になった。レティシア・ジェームズは、トランプおよびトランプ・オーガニゼーションを金融詐欺に関与したとして起訴した。銀行から融資を受けるにあたって、トランプが申告した資産価値は過大であり、金融詐欺行為であるとした。銀行に加え、保険会社や税務当局をだましたとして起訴した。ニューヨーク州裁判所のエンゴロン判事は、トランプが不正な利益を得たとして約3億6千万ドルドルの罰金の支払いを命じ、さらに不正行為から判決に至るまでの「判決前利息」も加えて約4億5千万ドル(675億円)を支払うように求めた。加えてトランプが向こう3年間、ニューヨーク州内で企業経営に従事することを禁じた。また、トランプ・オーガニゼーションと同氏の息子にも同様の罰を科した。フロリダ州パーム・ビーチトのマール・ア・ラゴにある別荘の価値をトランプは実勢価格で4億2000万ドルと評価したのに対して、エンゴロン判事は租税上の査定価格1800万から2700万ドルにあるとして、資産価値を過大に評価したとして、4億6400万ドルの返還を命じた。ただ、この事件は、被害者のいない金融詐欺事件であり、ニューヨーク司法長官のレティシア・ジェームズが作り出した訴訟である。対象になったローンはすでに返済されており、被害者からの訴えがない金融詐欺事件である。訴訟の焦点になった担保の価値において、マール・ア・ラゴの別荘は126室、5810平方メートルの邸宅であり、歴史的工芸品そして金箔をあしらったボールルームを備えた宴会場でもある。パーム・ビーチの不動産屋によると、同地区の類似物件は数億ドルで落札され、10億ドルを超える可能性もあるとしながら、通常の取引慣行から特に逸脱するものではないとしている。トランプが控訴するのは確実であるが、控訴するための保証金として4億6400万ドル(約690億円)を3月25日までに用意しろという。選挙キャンペーンの費用に加えて訴訟費用の捻出に苦労している中で、短期間に巨額の資金を準備することは難しい。レティシア・ジェームズは、期日まで支払いがなければ、NYにあるトランプタワーなど、トランプの資産を差し押えると脅した。トランプを潰すために民主党が仕掛ける法廷闘争の一貫である。これだけの現金を短期間に用意することは難しく、トランプは保証金の減額を求めた。控訴裁判所は、トランプ側の求めに応じて、保証金を1億7500万ドルに減額し、納付期限を10日間延長した。ロスアンジェルスの保険会社が保証金の支払いを引き受け、トランプは保証金1億7500万ドルを保証する証明書を4月1日に提出してピンチを凌いだ。この金融詐欺事件は、レティシア・ジェームズが作り出した被害者のいない金融詐欺事件であり、司法を武器化した民主党による法廷闘争の一貫である。レティシア・ジェームズは、「トランプを起訴して有罪にする」を公約に掲げて立候補し、黒人女性として初めてニューヨークの司法長官になった。ジェームズは、かねてニューヨーク州における住宅融資で、人種間で格差が存在し、「白人世帯が自宅を所有する割合は、黒人世帯の2倍以上ある」とレポートにまとめている。実際、黒人が保有する資産と白人が保有する資産の間には大きな格差が存在することを統計は示している。ただ、格差の問題とトランプの事件に直接の関連はない。トランプはこの訴訟を人種差別的と非難し、民主党検事が作り出した政治的魔女狩りだと非難した。
トランプが約20年前に関係した、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズとの情事をきっかけとして、この事件が始まった。ダニエルズは、公判の中で、2006年のゴルフ大会でトランプと出会い性的関係を持ったと証言しているが、トランプはそのような関係があったことを否定している。トランプの選挙キャンペーンの期間中、トランプの弁護士であったマイケル・コーエンはダニエルズの弁護士に「口止め料」として13万ドルを支払っている。コーエンはトランプの指示で選挙への影響を避けるために「口止め料」を支払ったと供述しているが、トランプはコーエンが「口止め料」として13万ドルを支払った事実を知らされていなかったと言っている。2017年4月から弁護士費用としコーエンに毎月3万5000ドルを合計46万ドル支払ったとした。ニューヨーク地区検事のアルビン・ブラッグは、トランプはコーエンに支払った「口止め料」を弁護士費用として虚偽の計上をし、業務記録を改竄したとしてトランプを訴追した。ここで、「口止め料」の支払いが業務記録として計上され、業務記録改竄があったとしても、業務記録改竄は軽罪であり時効である。ブラッグは、この事件でトランプを起訴できないとあきらめていた。しかし、2022年12月にブラッグの検察チームに司法省のNo3コランジェロが加わってトランプの起訴の流れは変わった。トランプの指示で、選挙対策のために「口止め料」が支払われ、これは連邦選挙資金違反の重罪にあたるとしてトランプは起訴された。「口止め料」の支払いが業務記録の改竄から連邦選挙資金法違反に再定義され、重罪で起訴された。「司法機関の武器化」でトランプは起訴された。この裁判を担当するのはファン・マーチャン判事であるが、いくつかの問題点が指摘されている。マーチャンは、民主党に政治献金をしたことがあり、ニューヨーク州の倫理規定によると、裁判官に党派的偏向がある場合、自らを担当から回避することが求められている。次に、マーチャンの利益相反の問題である。マーチャン判事の娘のローレンは民主党のコンサルタントとして選挙募金活動にも携わり、民主党から多額の報酬を得ている。マーチャン判事と娘の繋がりから、判事の利益相反が問われている。トランプがSNSで、「判事が担当する裁判で、娘が金儲けをしている」と非難すると、マーチャン判事は家族に対する暴言は許されないとして、トランプに対して緘口令を出した。それでも黙らないトランプに対して、マーチャン判事は懲役刑に処すると警告した。裁判官の権限乱用も疑われる。この裁判は、陪審員裁判であるが、マンハッタン地区の陪審員は民主党の党派色が強く、トランプにとって不利である。5月30日、陪審員団は34件の容疑すべてでトランプの有罪判決を下した。7月11日に量刑の判決が予定されていたが、最高裁が下した「大統領の免責特権」の判決を受けて、判決のスケジュールが11月12日まで延期された。免責特権の判決は、トランプが大統領職にあった2017年以降に発生した証拠の採用にも及び、免責特権の対象になるかどうかの判断が必要になることから量刑判決のスケジュールが延期された。(つづく)
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