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2024-10-03 00:00
(連載2)トランプ前大統領の法廷闘争
村上 裕康
ITコンサルタント
機密文書持ち出し事件は、2021年1月トランプ元大統領がホワイトハウスを退出した後、マール・ア・ラーゴの私邸に機密文書を持ち出して不適切に保管していたという事件である。この事件でトランプは2023年6月スパイ防止法違反および司法妨害の罪で起訴された。大統領記録法は、大統領の退任後、機密文書は国立公文書館(NARA)が保管管理することになっている。NARAはトランプ側に文書の返還を求めていたが、2022年初め頃になって文書の回収が始まった。国立公文書館(NARA)はマール・ア・ラーゴから大統領記録の箱15箱を回収したと発表した。2022年2月国立公文書館(NARA)はマール・ア・ラーゴから回収した政府資料の中に機密文書を見つけたと発表し、他にも機密資料を隠匿している疑いがあるとして司法省に捜査を依頼した。FBIはトランプが保有する機密文書の捜査を開始した。FBIがマール・ア・ラーゴから回収した15個の箱の中の資料を調べたところ、15個のうち14個に機密文書が入っていることが判明した。トランプは機密指定の付いた追加文書を求める召喚状を受け取るが、機密解除の権限をめぐって文書の提出を拒否する。8月FBIはマール・ア・ラーゴを急襲して家宅捜査をし、18件の極秘文書を含む54の機密文書を発見した。元大統領の邸宅を急襲して家宅捜査を行うことは、極めて異例である。トランプは「検察による違法行為であり、司法機関の武器化である」としてバイデン政権を非難した。2022年11月メリック・ガーランド司法長官は特別検察官にジャック・スミスを任命、事件の捜査にあたらせた。捜査を主導したスミスは2023年6月8日トランプを機密情報の違法な保管および捜査妨害など37の罪状で起訴した。フロリダ州地裁の判事の中からアイリーン・キャノンが担当判事に選ばれた。アイリーン・キャノンはトランプ政権時にトランプから指名された判事である。機密文書の持ち出しで起訴されたトランプは、2023年6月13日にフロリダ州連邦地裁に出廷し、すべての起訴内容で無罪を主張した。キャノン判事は公判期日を2024年5月20日とした。数百ページの証拠書類、動議、その他裁判資料について、その開示を巡って争われるが、2024年4月キャノン判事は証拠書類の開示を命じた。特別検察官のジャック・スミスは裁判資料の名前の公開に反対するが、キャノン判事は裁判資料の公開を命じた。検察側が提出した証拠文書は細部が黒塗りされ編集されたものであったが、キャノン判事は、封印を解除して機密書類の証拠を公開するように命じた。封印の解除でこれまで知られていなかった事実が浮かびあがってきた。2022年2月にNARAがトランプ邸から回収した政府資料の中に機密文書を見つけ、FBIに捜査を依頼したことになっていたが、新たな開示により、トランプがホワイトハウスを去った2021年の早い時期から、司法省はNARAと連絡をとりあって機密文書の回収に関わっていた事が明らかになった。バイデン政権は機密文書事件の捜査への関与はなく「捜査の独立性」を主張してきたが、早い段階から捜査に関わっていたことが明らかになった。2021年の初頭、トランプがホワイトハウスを去った後、機密文書がどこに移送され、誰が保管・管理をしていたのかについては不透明な部分が多い。また、FBIが8月に押収した文書の各箱に収まっていた書類の順序が入れ替えられたことを検察側は認めた。トランプ弁護団は証拠の改竄があたると非難した。キャノン判事は「この時点で公判日を確定することは、裁判所が抱えるさまざまな係争中の公判前申し立てを十分かつ公正に検討する必要がある」として、5月20日に予定されていた公判の日時を無期限に延期した。多くの公判前問題とCIPA(機密情報手続法)問題を抱えたまま公判期日を確定できないとした。さらに、機密文書問題でトランプを起訴したジャック・スミス特別検察官の任命の正当性が問われた。憲法で定められた手順によると、特別検察官は上院で承認された弁護士の中から大統領が任命して決めることになっている。しかし、スミスは上院での承認を経ないまま、司法省のメリック・ガーランド長官によって任命された。最高裁のクラレンス・トーマス判事はトランプ前大統領の免責特権に関する賛成意見の中で、ジャック・スミスの任命に疑問を呈した。「この前例のない訴追を進めるのであれば、アメリカ国民から正当に権限を与えられた人物によって行われなければならない」とした。トランプ弁護団は違法に任命されたスミスに、トランプを起訴する資格はないと、起訴を取り下げるよう求めた。フロリダ州連邦地裁のアイリーン・キャノン判事は、スミス特別検察官は違法に任命されたとして、起訴する権限がなかった判断して、トランプの機密文書持ち出し事件の起訴を却下した。また、スミスの事務所は違法な形で資金提供を受けていたと指摘した。キャノンの判決は他の裁判所を拘束するものではない。キヤノンの判断に対して、ジャック・スミスは機密文書持ち出し事件の起訴が却下されたことに対して控訴した。
トランプは2020年の大統領選挙で、ジョージア州における敗北を不正に覆そうとしたということで脅迫など41件の罪で、18人の関係者と共に起訴された。最も重い罪状はRICO法違反で、最大で禁固20年の刑に処せられる重罪である。トランプが起訴されたのは4回目であり、起訴したのはジョージア州フルトン郡のファニー・ウィリス地方検事である。ウィリス検事は極左のソロス財団から支援を受けるソロス検察官である。しかし、ウィリスがトランプ問題を捜査する特別検察官に選んだネイサン・ウェイドが彼女の恋人であり、二人が不倫関係にあったことが明らかになり、ウェイドが特別検察官に選ばれたのも、ウィリスとの特別な関係にあったからではないのかという疑義が生じた。また、ウェイドには特別警察官の報酬として、65万ドルという破格な報酬が支払われたことも問題視された。トランプ側弁護団は、この事件に関してウィリス検事の資格を剥奪するように申し立てたが、スコット・マカフィー判事は、3月、ウェイドを特別検察官から外す代わりに、ウィリス検事の継続を認めた。トランプ弁護団はマカフィーの判決を不服として控訴した。5月、控訴裁判所は、ウィリス検事の継続に関するマカフィー判事の判決を再審理すると発表し、控訴審理の日程を10月4日と決定した。また、判決が出るまでトランプに対する訴訟のすべての手続きは凍結された。トランプのジョージア州選挙介入事件の公判は、大統領選の11月以降に大きくずれ込むことが確実である。
2023年8月27日ジャック・スミス特別検察官は2020年の大統領選挙での敗北を覆そうとしたとして、2021年1月6日の議会襲撃事件に関連して、トランプを4つの罪、①米国に対する詐欺行為、②公的手続きに対する妨害の共謀、③公的手続きの妨害およびその試み、④投票権およびその共謀の罪、で起訴した。トランプは8月3日、ワシントンの連邦地裁に出廷し、いずれの4つの罪についても無罪を主張した。裁判を担当するのはタニヤ・チュトカン判事であり、裁判の公判を2024年3月4日に設定した。トランプ弁護団は、議会襲撃事件に関して、「トランプは大統領の公務として選挙不正を調査する義務を果たしたものであり、大統領の免責特権が適用される」と異議を申し立てた。チュトカン判事はこの訴えを却下するが、トランプ弁護団は、12月7日ワシントンDC巡回控訴裁判所に控訴した。ジャック・スミスは、免責特権の訴えで公判が遅れることを懸念して、異例にも連邦最高裁で直接審理するように求めた。しかし、連邦最高裁は控訴裁判所の判断を待ってから審理するように伝え、スミスの要請を却下した。2024年2月6日、控訴裁判所がトランプ前大統領の免責特権を認めないという判決を出したことを受けて、トランプ弁護団は連邦最高裁に上訴した。連邦最高裁は大統領免責特権の審理を受け入れ、4月25日に口頭弁論を開催した。口頭弁論では、保守派の判事から大統領の免責特権を認める意見が相次いだのに対して、リベラル派の判事からは慎重な意見が出された。7月1日、ジョン・ローバーツ裁判長は「大統領の憲法上の中核的権力の行使に関しては、この免責は絶対的でなければならない」という判断を下した。トランプの刑事責任については、部分的に免責されるとの判断を示し、起訴の対象になったトランプの行動が公務にあたるかどうかは下級審で判断されるべきとして、審理を下級審に差し戻した。8月27日ジャック・スミス特別検察官は、最高裁判所がトランプの免責特権を一部認める判断を下したことを受けて、トランプの起訴状を修正して再提出した。免責特権を避けるように修正しているものの、基本的な起訴の内容は変えていない。チュトカン判事は、最高裁の判決を受けてトランプの行動が免責特権適用の対象になるのかどうかを判断することになる。チュトカンは連邦検察官に対し、トランプ側に必要な証拠を9月10日までに引き渡すよう命じ、検察側には大統領免責に関する主張をまとめた冒頭陳述書を9月26日までに提出するよう命じた。
2023年12月、コロラド州の最高裁判所は、2021年1月6日の連邦議会乱入事件を巡りトランプ前大統領が反乱に関与したと認定し、国に対する反乱に関与した公務員が公職に就くことを禁じた憲法修正第14条3項の規定に基づき、大統領選の予備選挙に向けた州の予備選挙に立候補する資格はないとする判断を下した。トランプはこれを不服として、連邦裁最高裁にたいして上訴していた。トランプの立候補資格を巡って、全米の36の州で同様の訴えや申し立てが裁判所や州務長官などに対して行われた。メーン州では2023年12月、州務長官がトランプに立候補資格がないという判断を示し、イリノイ州でも2024年2月州の裁判所で立候補の資格がないという判断が示された。コロラド州、メーン州、イリノイ州の3州の決定は連邦最高裁の判決を待って保留されていた。連邦最高裁は3月4日、「州は憲法の下で、連邦公職、特に大統領職に関して第14条3項を執行する権限を持っていない」として、州が反乱を理由に投票からトランプを除外することはできないという判決を下した。
2020年の大統領選挙をめぐって、選挙結果を覆そうとしたして発生した2021年1月6日の議会襲撃事件に関連して、トランプ元大統領は公的手続きに対する妨害の共謀、公的手続きの妨害など4つの罪で起訴された。トランプは、4つの罪のいずれも無罪を主張し、「盗まれた選挙を調査する公務を果たしたもので、大統領の公務の範囲内で行動したもので、大統領の免責特権が適用される」と異議を申し立てた。トランプの申し立ては一審で却下され、二審のワシントンDC巡回控訴裁判所でも却下されるが、トランプの訴えは連邦最高裁判所で受理され審理されることになった。連邦最高裁は4月25日の口頭弁論で、トランプの免責特権を認めるかどうかの審理を行った。トランプが主張する「絶対的な免責」については否定的であったが、保守派判事からは、大統領の公務にあたる行為は一定の免責が必要との意見が相次いだ。一方でリベラル派判事は少数派ではあるが、免責に慎重な姿勢を示した。7月1日、最高裁はトランプの刑事責任について、部分的に免責されるとの判断を示した。9人の判事のうち保守派の6人がこの判断を支持し、リベラル派の3人が反対した。ジョン・ローバーツ裁判長は「大統領の憲法上の中核的権力の行使に関しては、この免責は絶対的でなければならない」という判断を下した。起訴の対象になったトランプの行動が公務にあたるのかどうかは下級審で判断すべきであるとして、審理を差し戻した。最高裁の判決を受けて、大統領免責特権の判断はコロンビア特別区巡回裁判所に差し戻され、さらに控訴裁判所からワシントンDC地方裁判所のチュトカン判事に差し戻された。チュトカン判事は、最高裁の判決に基づいて、トランプのどの行為が大統領の公務にあたるのかどうかを考慮して、免責特権適用の可否を判断しなければならない。
2021年1月6日、大統領選挙の結果を認定する日に、トランプ前大統領の支持者らが国会議事堂周辺に集まり、大統領選挙の不正を訴えて抗議集会を行った。デモ隊の一部は暴徒として、国会議事堂に乱入した。この暴動で、1230人以上が連邦犯罪で起訴された。これまで約750人が有罪判決を受け、そのうち460人以上に禁固刑が言い渡された。重罪判決を受けた被告のうち、350人以上が妨害罪で起訴されている。妨害罪はエンロンの金融スキャンダルを受けて制定された2002年のサーベンス・オクスリー法(SOX法)の規定-18U.S.Code1512(c)(2)-に由来するもので、公式手続きを妨害したり、その行為を妨害したりする目的で記録を破棄することを違法とする最長20年の懲役刑を伴う重罪である。プラウド・ボーイズのリーダー格のエンリケ・タケオには禁固22年の刑が科され、オースキーパーのスチュアート・ローズ被告には禁固18年の刑が科されている。政治的な背景をもつ暴動事件として、BLM騒動ある。BLM騒動では1500人以上の警官が負傷し、35人程度の死者がでたというが、重罪で起訴されたのは120人程度で、5年以上の懲役刑を受けたのは10人程度である。一方、議会襲撃事件は規模のわりに非暴力的であった。あれだけの事件で、心臓発作や自殺で亡くなった警官4名を除くと、死者は警官の発砲で亡くなったアシュリー・バビット一人だけである。議会襲撃事件の場合、MAGA運動を支持する右派の運動家をターゲットとして、暴行罪に妨害罪が加えられ、厳しい判決が下されたきらいがある。議会に乱入しなかったのに逮捕され、妨害罪で起訴された被告もいる。ジョセフ・フィッシャーは議会襲撃事件において妨害罪で起訴された被告の一人である。フィッシャー被告は警察官に突撃したことは認めたものの、妨害罪については異議を申したてた。カール・ニコルズ連邦地裁判事は被告に証拠を改竄する意図はなかったとして妨害罪による訴追を棄却した。しかし、政府はこの判決を不服としてコロンビア特別区巡回区控訴裁判所に上訴した。連邦地裁で判決が覆され、フィッシャーは直ちに控訴した。連邦最高裁はフィッシャーの訴えを受理し、この問題を審議すると発表した。フィッシャーの訴えは、妨害罪で起訴された350人以上に対する判決にも影響する。また、「公的手続きに対する妨害」で起訴されたトランプの裁判にも影響する。4月16日、連邦最高裁は1月6日の「妨害罪」について口頭弁論を行った。複数の保守派判事は妨害罪が拡大解釈されているとして、その適用の範囲について懐疑的な見方を示した。一部の保守派は、政府検察側の立場に立てば、「当局がデモ参者の政治的傾向に基づいて起訴するかしないかを選ぶ土壌が整う」と警告した。ゴーサッチ判事は最長20年の禁錮刑に相当することを強調し、同法の拡大解釈が平和的に抗議する権利を侵害する可能性に懸念を示した。トム・コットン上院議員とジム・ジョーダン下院議員はフィッシャーを支持する意見書を提出し、「バイデン政権による政敵追及は止めなければならない。無理な法解釈は政治行為の広範囲を犯罪化し、憲法修正第1条に違反することになる」と述べた。6月28日、連邦最高裁は2021年1月6日の議会襲撃事件を巡り、参加者への起訴の一部が不適切だったとする判断を下した。最高裁は司法省が「妨害罪」違反で起訴するには、容疑者が公式な手続きに使われる記録や書類などを損なったり改竄したりしたことの証明が必要と、審理を下級審に差し戻した。議会襲撃事件で司法省は原告を含め300人以上が同条項で起訴しているが、ガーランド司法長官は「失望している」としたうえで、同条項のみで起訴された参加者は少なく大半の訴追に影響はないと指摘した。また、トランプが議会襲撃事件に関与して起訴された事件でも、同条項に違反する罪が含まれているが、検察側はトランプが証拠改竄にあたる行為をしていたとして、同条項の適用は可能だと主張している。(おわり)
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