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2007-11-28 00:00
可能か、アジア外交の新展開
鍋嶋敬三
評論家
福田康夫首相がメールマガジンで東アジア・サミット(EAS)が開催されたシンガポールから「駆け抜けるような1週間、外交に全力投球し、各国首脳と信頼関係を築くことができたのが何よりの収穫」と書いて成果を披露した。ワシントンでのブッシュ米大統領との会談(11月16日)から東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の会議と数多くの首脳会談をこなした。首相の目に映ったのは中国の台頭とインドの経済発展のスピードであり、アジア地域での影響力拡大であった。北朝鮮の核開発、ミャンマー(ビルマ)軍政の民主化デモ弾圧、パキスタンの政情不安など不安定要因を多く抱えているアジアは、一方で地域統合への動きも進んでいる。首相はシンガポールでの記者会見で、中印の存在感の増大という「大きな変化を踏まえて、わが国のアジア政策は変質していくだろう」との実感を率直に述べた。
首相は就任後の所信表明演説で「日米同盟の強化とアジア外交推進の共鳴」を提唱した。ブッシュ大統領との会談でも日米同盟がアジアの平和と安定の基礎をもたらし、アジアの発展が同盟強化に貢献するとの考えを強調した。しかし、日本外交にとって問題が次々と出ている。同盟関係の象徴になったインド洋での給油の中断、在日米軍の思いやり予算削減、牛肉輸入再開など同盟関係が漂流しかねない問題が表面化してきた。日米両国とも政権の基盤が脆弱になったことが背景にある。
アジアに目を向けると、ASEANを挟む形の中国とインドが域内での発言力を強めてきた。ミャンマー問題のガンバリ国連事務総長特別顧問のEAS出席について中国が反対、同氏の報告ができなかった。このサミットの目玉になったのが温暖化対策のシンガポール宣言。2020年までに参加16カ国が森林面積を1500万ヘクタール以上増加させる目標は盛り込んだものの、エネルギー使用効率の数値目標設定には「途上国代表」を自任するインドが強硬に反対し、ASEAN諸国の賛同も得て、宣言から除外させることに成功した。福田首相はインドの発展状況についてシン首相との会談で「巨像が力強く動き出した印象」と述べたのは、その存在感の大きさを目の当たりにしたからだろう。
福田首相はアジア外交の理念として「自律と共生」の精神を挙げ「日米同盟を基礎とした、筋の通ったアジア外交を展開する」と強調している。そのためにはグローバルな視点に立った雄大な外交構想が不可欠であり、国民的議論が必要である。しかし「ねじれ国会」で主導権争いに汲々(きゅうきゅう)とし、国益よりも党利党略を優先する内向きの政治家たちは、大きな世界の変化のうねりに鈍感で、「井の中の蛙、大海を知らず」のようである。長期的な国益は何かを考えたアジア外交戦略の構築は果たして可能だろうか。
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