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2007-12-03 00:00
政党は党議拘束を緩和せよ
杉浦正章
政治評論家
相次ぐ政治家・官僚の不祥事、葦の髄から天井を覗く野党。そこには国益に根ざした世界観はおろか、政治の将来を見据えた大局観もない。あるのは与野党とも総選挙をにらんだ党利党略だけである。この〝ねじれ〟状態に発する政治の醜態に、どう対処するかについては、当分放置するしかない。〝学習〟が必要だからだ。放置して政党間の新秩序の醸成を待つしかない。しかし米国など諸外国の例を見れば、あるべき政治の姿は見えてくる。基本は政党が大人になることである。
とにかく〝ねじれ〟状態は6年、または9年は続く。これを政略的に解決しようとしたのが大連立構想である。失敗したが、大連立はともかく小連立や政界再編の可能性は常に存在してゆく。しかし、こうしたドラスチックな対応は、タイミングが作用してなかなか出来るものではない。同じ〝ねじれ〟にある米国で何故連立が生じないまま二大政党が続いているか。特派員として米議会を取材していて分かったことは、大人の対応である。米国ではねじれ状態を「分立政府」といい、上下両院が政権党で多数を占める場合を「統一政府」という。過去26年のうち統一政府は8年しかなく、残り18年は分立政府だ。
なぜ対立が日本のように極限まで激化しないかであるが、それは米議会では法案に対してほとんど党議拘束がかけられていないため、議案ごとに個々の与野党議員が是々非々で交差投票(クロス・ボーティング)を行う制度であるからだ。クロス・ボーティングが定着している背景には、民主共和両党に〝国益〟という共通認識があることだ。加えて欧米伝統の個人主義も底流にある。人格識見において「個」が確立されていてはじめて可能になる制度だ。大人の政党政治だ。
翻って日本の政治はどうか。自民党の場合党大会や両院議員総会や総務会の決議によって党議拘束がかかることになっている。党議拘束に違反した場合にはどうなるか。郵政民営化法案で小泉純一郎総裁が造反議員に下した除名処分がある。粛清政治にまで直結し得るのである。これでは、与野党は激突路線を常にとらざるを得ない。しかし、戦後の政治史で党議拘束をかけない政党があった。参院の緑風会である。同党は「是々非々」を旨とし、党議拘束を設けなかった。そのため、同じ法案に緑風会から賛成、反対両方の討論を行ったことすらある。「参院の良識」という言葉は緑風会から発祥している。
それでは、現実政治において、党議拘束を緩和することは不可能だろうか。党議拘束とは直接関係がないが今国会でも、与野党の話し合いで成立した法案も多い。「給油」に隠れて影が薄いが、改正被災者生活再建支援法がそうだし、厚生労働関係で弱者救済に重点を置く法案が多く成立している。故大平首相の唱えた一種の「部分連合」的な色彩もあるのだ。これを延長してゆけば決して不可能とは思えない。黒か白かで物事を処理しようとするのは日本人の特性でもある。対立軸を作ってエネルギーを激突させた尊皇・攘夷の伝統もある。加えて軽佻浮薄なテレビ番組が視聴者に分かりやすくするため、対立の図式を単純化する。政党もこれに乗ってポピュリズムの傾向を募らす。今後新テロ法案をめぐって政局は激突のコースをたどるだろうが、与野党共に傷つくことは必至だ。その学習の上に立って、党議拘束の緩和という欧米の政治形態を取り入れるのも考慮に値するのではないか。
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