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2024-12-16 00:00
世界動乱時代の安保戦略2年
鍋嶋 敬三
評論家
日本の安全保障政策を「大転換」した政府の「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の策定(2022年12月16日)からはや2年、世界はかつてない動乱の時代に入った。中国の台湾包囲演習の多発、北朝鮮による核・ミサイル開発の急進展およびロシアとの事実上の軍事同盟条約の締結、さらにウクライナ戦争への派兵、シリアのアサド独裁政権の崩壊、韓国では尹錫悦大統領の弾劾決議案が可決、米国はトランプ2.0政権発足へと世界中で動きが激しい。日本で石破茂少数与党内閣が政権運営に苦慮しているが、欧州でもドイツ、フランスなど主要国で政局不安に直面している。日本を取り巻く安保環境について政府の基本認識は、国際秩序を形作るルールを簡単に破ったロシアのウクライナ侵略が「東アジアでも発生する可能性が排除されない」という危機感に基づく。
国家安保戦略は日本の国益を守るため「防衛力の抜本的な強化」を求めた。世界的なパワーバランスの変化で米国の強力な指導力が失われるとの認識に立ち「同盟国・同志国との連携による国際秩序の維持が日本の安全保障に死活的に重要である」とした。日米同盟を軸に自由・民主主義陣営の2国、3カ国間さらに多国間のネットワークの重層的な構築を発展させてきた。戦後最悪とされた日韓関係も岸田文雄首相(当時)が尹大統領との首脳シャトル外交で大きく改善した。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)も含めアジア・太平洋から欧州の至るまで安保協力体制を築いたのは大きな成果だった。これも日本政府が新安保戦略で防衛力強化を鮮明にしたためである。しかし、その国際的協力体制が新たな試練に直面している。第一に「米国第一」主義を掲げるトランプ政権の再登場が同盟体制を揺るがしかねない。第二に米国や欧州の眼がウクライナや中東に向けられ、アジア・太平洋地域との協力姿勢に影が差しかねない。第三に朝鮮半島である。露朝の軍事協力は南北の軍事バランスの変化に影響をもたらそう。韓国政治の大混乱も日米韓の結束に悪影響は必至である。一番喜ぶのは中国であろう。
安保戦略の要は防衛力の強化である。その目標を戦略策定5年後の2027年とした。ちょうど中国による台湾攻略の時期として米国が予測する「2027年問題」と合致する。防衛関連予算の水準を国内総生産(GDP)比2%にする目標も掲げた。トランプ第1次政権がNATO諸国に強く求めた水準を念頭に置いたものだ。防衛力整備計画では所要経費として27年度までの5年間に43兆円を見込んだ。所得税、法人税、たばこ税で増税、1兆円を確保する計画だった。しかし、自民・公明の与党は12月13日、法人、たばこ両税の増税は合意したが、所得税は増税時期の決定を見送った。防衛増税に反対の国民民主党への配慮からだ。日本の政治につきまとう「小出し、先送り」の悪い癖がでた。政権運営のため一部野党の主張を飲まざるを得なかった少数与党の悲哀を早くも味あわされたのである。
防衛増税の決定ができないようではトランプ政権に対して弱い立場に立たされ通商、経済分野を含む日米関係への悪影響が予想される。現安保戦略は第2次安倍晋三内閣で2013年に策定されてから9年も経ってからだ。この間の世界情勢は激変した。現戦略の2年間だけでも紛争や戦争は激発し、国際秩序が大きく動揺している。主要国の大統領の任期は米国4年、フランスや韓国が5年だが、この間にも情勢は激動を続ける。日本の外交・安全保障の基軸を日米同盟に置き、同志国との連携を基調とする以上、主要国との安保戦略と時期にずれがあってはならない。小著「パラダイムシフトと日本の針路ー動乱の世界を生き残れるかー」(三省堂/創英社刊)でも提起したが、国家安保戦略は5年毎、次は2027年を目途に改定すべきだ。そのためには来年夏の参院選挙、さらに次期衆院総選挙で安定政権を確立することが欠かせないのである。
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