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2025-02-25 00:00
(連載2)ミュンヘン会談の教訓は本当にトランプ大統領を否定できるか
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
第二に、1938年のミュンヘン会談の最大の問題性は、交渉によってチェコスロバキアの領土割譲を正式に確定させようとしたことである。これは国際連盟規約に反する行為であった。現代であれば、国連憲章違反である。トランプ大統領は、停戦は語っているが、領土割譲を正式に宣言せよ、とウクライナに迫っているわけではない。停戦というのは、ある程度の領土の帰属に関する認識を曖昧にしながらも、まずは達成してみようとする試みのことだ。そうでなければ、北方領土問題を抱える日本がロシアと戦争をしていないのは、国連憲章違反だ、ということになってしまう。
第三に、1938年の「宥和政策」が1939年のポーランド侵攻を招いた、と仮定しよう。それは「宥和政策」が、ヒトラーの心理に甘えを抱かせたからだ、という仮定によって成り立つ主張である。だが別の観点から言えば、実効性のある抑止策を導入できなかったがゆえに、さらなるヒトラーの侵攻を防ぐことができなかった。問題は、抑止策である、と言うこともできる。
現在のロシア・ウクライナ戦争をめぐる停戦案では、欧州軍のウクライナ領への展開などの再侵攻を防ぐメカニズムが議論の対象になっている。こうした措置は、侵略を防ぐのは、「ウクライナは勝たなければならない」といった言葉による心理ゲームではなく、現実世界における抑止力の有無である、という考えにもとづくものだ。換言すれば、現在協議されている停戦合意の内容は、抑止力の導入によって再侵攻を防ぐことを目指したものだ。ミュンヘン会談のような歴史的事例から、「宥和政策」であろうが「威嚇政策」であろうが、心理ゲームだけを繰り返していても、効果はない、現実の抑止策こそが、将来の侵略を防ぐ、という教訓を引き出すこともできるのである。
トランプ大統領が非常に際立った性格を持つ人物であるがゆえに、自分の願望に反したトランプ大統領の行動を、全て支離滅裂なものとみなしてしまいたい、という衝動を抑えきれない方々が、多々いらっしゃる。しかし国家としてのアメリカは、すでに3年間も大規模な支援でウクライナを支援してきた。それにもかかわらずウクライナは、特にザルジニー総司令官罷免後のゼレンスキー大統領は、クルスク侵攻のような冒険を試みるだけで、ロシア軍に負け続けている。アメリカが、疲弊を感じて、新しい段階に進みたいと考えるに至ったとしても、それは驚くべき事態ではない。冷静に状況を分析していく態度が必要だ。(おわり)
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