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2026-09-08 00:00
国際秩序の大転換期に首相の役割
鍋嶋 敬三
評論家
国際テロリスト「アルカーイダ」が米民間航空機4機を乗っ取り、ニューヨークの世界貿易センタービルなどに激突させ日本人24人を含む2977人が犠牲になった同時多発テロ事件から9月11日で25年を迎える。この事件は世界を震駭させ、米国中心の国際秩序の大転換への号砲となった。それから四半世紀、世界情勢はガラリと変わった。日本にとっても国際情勢の根本的な変化にどのような長期的戦略を持って対応するかが課題である。(不安定性と不確実性が露わの21世紀世界の歴史的転換については小著「パラダイムシフトと日本の針路」・三省堂書店/創英社刊で詳述した)。
米国の世界における影響力の低下はアフガニスタン戦争など過度の長期軍事介入が原因だ。最近ではイラン戦争とホルムズ海峡危機で世界経済の混乱を招いている。トランプ大統領の「米国第一主義」で北大西洋条約機構(NATO)同盟関係に深刻な亀裂を入れた。米欧の対立はロシアが侵略するウクライナ戦争への同盟協力にも重大な影響を与えている。関税戦争によって世界経済に大混乱を巻き起こした。かつて西側の盟主として旧ソ連を崩壊に追い込んだ姿はもはやない。最大の競争相手とみる中国の対しても秋の米中首脳会談開催をにらんで徹底的な対決姿勢を避けている。その中国は米国の影響力低下という「敵失」に乗じて反米感情の強い中南米、アジア、中東、アフリカなどのグローバルサウス諸国を取り込みつつ世界への影響力を拡大している。トランプ政権は国連など国際機関の弱体化も意図的に進めてきた。最近では国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長らに対する強い制裁もある。11月にトランプ政権は国民の評価が示される中間選挙を迎える。与党共和党が「トランプ党」に支配され、野党民主党も急進左派勢力が伸張し、両党とも党内分裂が固定化されつつある。中間選挙は世界における米国の役割をどう考えるかを示すものとなるだろう。
日本外交の萎縮ぶりが顕著である。経済や安全保障などをめぐって横暴とも思えるトランプ外交に正面切って強い反対の意思表示ができていない。これは同盟国でもフランスやオランダなどと違うところだ。赤根ICC 所長への制裁についても同じである。日本政府が赤根氏をICC裁判官への立候補を強力に推進した経緯からも、米国による制裁に何らの有効な措置を取らないなら、日本は「トランプの顔色」を伺うばかりとの評価が定まろう。それは中国と連携を深めるロシア、北朝鮮にとっても好都合だ。尖閣諸島周辺の威嚇行動・領海侵犯や、希少金属の一方的な対日輸出規制など国際経済原則に反する中国の横暴に対して強力な対抗措置も取らない。米中対決の焦点となる台湾防衛で日本がどのような対応を取るかはアジアや世界情勢にかかわる重大問題である。しかし、高市早苗政権では台湾有事の「その時」の対処方針が示されていない。対中政策に毅然と向き合う基本方針がないからで、中国になめられる事態を招いている。
その場限りの対応では日本の安全は守れない。根本的な欠陥は長期的戦略を欠いていることである。吉田茂首相は1950年、ダレス米国務長官の再軍備要求を拒否し軽武装・経済優先路線を貫いた。岸信介首相は1960年、野党や学生の大規模国会包囲デモの圧力の下で日米安保条約を改訂、現在の日米同盟体制の基礎を築いた。半世紀後に日本は経済大国、アジアの安定勢力としての評価と地位が定まった。第2次大戦後80年、国際秩序の大転換(パラダイムシフト)が音を立てて進行する中、政府は12月に国家安全保障など3文書を改訂する。高市首相の役割は世論受けを狙った響きのよい言葉ではなく、世界を俯瞰する広い視野に立って重い課題を実現するため国民の覚悟も求めて長期的なロードマップを示すことである。
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