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2008-01-15 00:00
自虐スパイラルはもういい
杉浦正章
政治評論家
経済評論家らによる誤判断のデフレ・スパイラルが終わったと思ったら、今度は「自虐スパイラル」の様相である。新年半月の論調を見聞きしていると、日本はもはや断末魔の様相である。この作られつつあるムードは、捨てておくと国民に心理的な不安感を巻き起こし、政治、経済、文化すべての面で沈滞ムードにさらされる。影響力の強い朝日新聞が「外から押し寄せる脅威より前に、中から崩壊してしまわないか」と社説に書けば、毎日も「日本は衰退の気分が広がり・・」と暗い。政治家も負けてはいない。元首相中曽根康弘も「日本は明らかに転落しつつある。どん底に入りつつある」とこれ以上ない表現で激しい。総じて株価の低迷、人口減少、一人当たりGDPの下位転落、国の借金など現状のマイナス要素を背景にした論調だ。「昭和はよかった」という溜息のような論調もある。
思い出すのは11年前のデフレ論議である。小生は当時このデフレは「よいデフレ」ではないかと直感した。経済のグローバル化に伴う安価な輸入財の国内流入や、生産性上昇という主に「実態経済」に起因していると思ったからだ。しかし日経新聞をはじめ経済評論家の多くが「日本はデフレ・スパイラルにはまって、底知れず落ち込む。経済は崩壊、30年は立ち直れない」と予言していた。回復に50年かかると言った評論家もいた。どうなったか、景気は6年前から好転、史上最長を更新し、デフレ終息のポイント「名実逆転」が視野に入った。思えばデフレ・スパイラルの主張は極めて「狼少年」的であった。今回の〝自虐スパイラル〟も、実体にマッチしないで、ムードだけが先行している観が濃厚である。
国民性というか、日本は青白きインテリが多すぎるというか。米国の「三つ子の赤字」はある試算によると3000兆円に達するという。日本の3倍である。大統領選は景気・経済対策が最大の焦点となっているが、大統領候補からは、国家が潰れるような演説は全く聞かれない。個人の借金にしても米国は2万ドル程度の借金で破産宣告するケースが多いが、日本は200万円で一家心中である。サブプライム・ローン問題は、米国に発症し、米欧に深刻な打撃をもたらしているが、米欧に比べれば軽微な「被害」にとどまっているのにもかかわらず、まるで日本が主役のような論調がある。株価の低迷にしても、官房長官町村信孝が言っているとおり「どう見ても、これが日本経済の実体と関係がないなという印象」なのである。内外の「株屋」の思惑に翻弄されすぎているのだ。投機のもたらす変動には、もう少し「すれっからし」になってよい。GDP下位転落もデフレが原因の一つだろう。
中国脅威論も盛んだが、中国が突然出現した「米国を上回る輸出相手国」であることはとんと忘れている。一衣帯水、地の利も良い。中国経済の上昇は、オリンピックを通り越して2010年5月の上海万国博までは続くと見られており、まだまだ中国特需は続く。神風的なチャンスでもある。昨年日本を覆った「偽」旋風にしても、何も「末世」と嘆くことでもない。年金、賞味期限、防衛疑惑のいずれをとっても、昭和以来の「負の遺産」であり、今になってようやくそれを摘発する判断力、能力がついたことに他ならない。物事は前向きに考えることだ。凶悪事件も諸外国に比較してみることだ。国民生活も、作家曾野綾子が「どこまで恵まれれば気が済むのか」と問いかけているが、その通りだ。日本のように安全で住みやすく、医療水準の高い国も珍しい。
るる述べてきたが、自虐史観は次の一言で潰れる。日本の長寿は世界一であり、健康長寿も世界一だ。長寿は政治、経済、社会、文化による「総合芸術」であり、外国の友人がまず羨ましがるのが、日本の長寿だ。日本食が世界中でブームとなっているのも、長寿に起因している。要するに、世界に類を見ない日本人独特のペシミズムに陥って、大きな目標を見落としてはならない。アジアの市場は活気を呈しており、日本の独占的優位は否めない。環境技術で圧倒的に先行する日本の地位も揺るがない。考えようによっては、チャンスは無限にある。政治家も自虐史観の追及に、防戦一方にならず、前向きの展望を示さなくてはならない。昭和などはよい時代ではなかった。ノスタルジアにすぎない。
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