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2008-03-17 00:00
実効性のない対「北」経済制裁の実態
吉田康彦
大阪経済法科大学客員教授
注目されたジュネーブの米朝協議は、北朝鮮の全核計画の「申告」をめぐって見解の相違を残したまま結論を先送りした。金桂冠次官は「両者の見解の差は縮まった」と述べているが、溝を埋めるのは簡単ではない。日本のメディアは、北がウラン濃縮計画を放棄せず、中東への核拡散にもフリーハンドを保持したいとの意思を表示したものと即断しがちだが、ことはそれほど単純ではない。ウラン濃縮計画については米国内にも否定的な見方が多く、パキスタン、ドイツなどから遠心分離器の素材となるアルミ合金を輸入したらしいという状況証拠のほかは、手がかりがない。北が提供した合金のサンプルに高濃縮ウラン粒子が付着していたという情報もあったが、確証はない。シリアへの原子炉輸出疑惑も、シリア当局は否定しているし、疑惑の施設を空爆したイスラエルも沈黙しており、これも確証がない。金桂冠次官は「過去も、現在も、将来もいかなる計画も存在しない」と全面否定している。
米朝対立の根本原因は「言葉対言葉、行動対行動」の「同時行動の原則」が6者協議の共同声明で確認されているにもかかわらず、米国は北が要求する「テロ支援国家」指定解除に動こうとせず、「完全で正確な申告」だけを問題にしていることにある。北は見返りとしての重油支援の遅延なども問題にしているが、主眼は「テロ支援国家」指定解除にある。ブッシュ大統領が真剣に指定解除の決断を下さない限り、同政権中の朝鮮半島非核化は実現しないであろう。
そうした中で、日本政府は拉致問題が解決しない限り、「テロ支援国家」指定解除に反対している。ライス国務長官は指定解除と拉致は無関係という立場だが、米国が対日配慮で指定解除を先延ばしにすればするほど、日本が朝鮮半島非核化の実現を妨げる構図になりかねない。今こそ「拉致問題の解決とは何か」を問い直し、国会とメディアがタブーを排して率直に議論すべき時だ。日本政府は拉致問題「解決」のために対「北」経済制裁を実施しているが、実効性がないことは自明の理である。期限の切れる4月13日以降、延長しても結果は同じであろう。在日朝鮮人いじめにしかなっていない、のが現状だからだ。
そもそも現在の経済制裁は、北の核実験に抗議して実施されたものだ。たしかに北朝鮮産のアサリやカニは市場から姿を消したが、日本製品は平壌はじめ北朝鮮全土に溢れている。私は毎年訪朝しているが、日本の提案で国連安保理決議に取り入れられた「ぜいたく品の禁輸」は尻抜けになっており、中国経由で自由に入ってきている。経済制裁というのは、相手国の政策転換を促す手段になって初めて効果を発揮するものだが、所期の効果を挙げているとは言い難い。
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