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2008-03-19 00:00
分水嶺に差し掛かる北朝鮮核問題
鍋嶋敬三
評論家
北朝鮮の核問題は3月13日の米朝ジュネーブ交渉でも目立った成果はなく終わった。米国が要求する「正確で完全な核計画の申告」を北朝鮮が受け入れて、テロ支援国家指定の解除を米国に認めさせるのか、それともブッシュ政権下で交渉が行き詰まったまま、次期政権での交渉に持ち込むのか、分水嶺に差し掛かってきた。ライス国務長官は14日、「直ちに何かを期待しているわけでない」としながらも「問題を解決すべき時だ」と述べた。6カ国協議での第2段階措置についての合意(2007年10月)では、寧辺の3核施設の無力化および核計画の完全で正確な申告を2007年末までに達成するとした。これと引き換えに北朝鮮はエネルギー追加支援を受け、米国はテロ支援国家指定と対敵通商法適用という制裁の解除を、時期を定めないまま北朝鮮がとる行動と並行して履行する、と言及している。
「申告」を巡る交渉の焦点は、高濃縮ウラン(HEU)による核開発とシリアなどへの核拡散活動の2点だ。北朝鮮は全面否定し、米国との対立の根深さを改めて示した。米側は、申告を付属文書や別の文書の形で処理するという妥協案を提示したとされるが、問題はやはり申告の内容だ。2月末の日米外相会談でライス長官は「完全かつ正確な申告が重要」との立場を改めて表明。それが「北朝鮮の核計画の完全な廃棄が行われる第3段階へ繋がる道があることを的確に示す」ことになる、と記者会見で語った。
あと10ヶ月を残すのみのブッシュ政権下で合意の履行は現実的に可能か。ライス長官は「合意の履行に最大限努力したい」と述べるにとどまった。そして「すべての当事者が政治的意思を示す用意があれば」との前提で、朝鮮半島の非核化への相当の進展、戦争状態の終結や関係正常化に向けた前進が可能だ、との考えを示した。まさに当事者の「政治的意思」が最も重要なポイントである。北朝鮮は非核化を実行する意思があるのだろうか。現在の核問題は、1994年の米朝「枠組み合意」が北朝鮮による秘密のウラン濃縮活動によって反古にされたため、というのが米国の見解だ。「核」は金正日体制生き残りのための「打ち出の小槌」であり、そのうまみを知った北朝鮮は、おいそれと手放すことなど考えたこともないだろう。
米外交問題評議会のセイモア副会長は1月のインタビューで、北朝鮮が合意履行のプロセスを凍結し、2009年1月の新政権発足を待って交渉を再開する、ことを決定した可能性があるとの見方を示した。北朝鮮の今後の出方として同氏は、テロ支援国家指定の解除を求めて申告に向け前進するか、逆に戦術をエスカレートさせて無能力化プロセスを中止するとか、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出する、と脅す可能性もあると指摘した。危機を演出し、要求する対価を釣り上げる瀬戸際外交は、北朝鮮の常とう手段である。だが、行き詰まりが長引くほど、ブッシュ政権に残された時間は少なくなる。ブッシュ外交が成果を挙げようと焦り、北朝鮮に譲歩を重ねることが今、最も危険なことである。
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