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2008-04-21 00:00
NHK国際放送の「国益」論議にもの申す
吉田康彦
大阪経済法科大学客員教授
NHKの古森重隆経営委員長の「国益」発言が波紋を広げ、朝日新聞と産経新聞が論争を繰り広げている。朝日は「国の宣伝放送であってはならない」としているのに対し、産経は「国益主張は当然」との立場から、本フォーラムの田久保忠衛氏らのコメントを載せ、反論しているが、古森氏自身が「国益とは国民全体の利益」と定義している以上、不毛な抽象論だ。
問題は「国民全体の利益」が何かという点で、田久保氏らが挙げている北方領土の例で言えば、当然のことながら「四島一括返還」が「国民全体の利益」だから議論の余地はない。ただしニュース原稿では、「二島返還でもよい」とする意見もあると紹介するのが「公正な報道」であり、同時にロシアの立場も付け加えるのを忘れてはならない。BBCの例を引くまでもなく、NHKの国際放送の現場も、同じ立場でニュースを編集し、放送している。
私は、国連職員、次いで大学教員になる前、主としてNHKで国際放送を23年間担当していたが、むしろ「政府の公的見解」が存在しないことにいつも失望、落胆し、苛立っていた。たとえばチベットの例でいえば、中国側は「ダライ集団の挑発」と主張し、ダライ・ラマ側は「中国の弾圧」と反論している。事実、NHKは双方の見解を公平に並べて放送しているが、日本政府の公的見解は「話し合い」を呼びかけてはいるものの、中国政府に遠慮して、旗色鮮明にしていない。それが戦後日本外交の特徴である。
「政府の宣伝放送になる」と朝日は懸念するが、杞憂である。領土問題、拉致問題など直接利害関係のある事柄は別にして、大抵の国際問題で日本政府は優柔不断であり、「公的見解」など存在しない。核軍縮でも、「唯一の被爆国として核廃絶は国民の悲願」としながら、国連総会で米国に遠慮して「核兵器使用禁止決議案」や「核廃絶決議案」には棄権したり、反対しているのが、日本外交の実態なのだ。
私の現役時代、国際問題のニュース原稿には官房長官談話や外相の記者会見を必ずつけて放送する原則を貫こうとしたが、「各国の動向を見極めて対処する」とか、「成り行きを見守りたい」とかのコメントばかりで、英訳しても意味不明になり、ほとんどの場合公的見解を省略せざるを得ないのが実情だった。
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