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2008-05-25 00:00
「新しい福田ドクトリン」に説得力はあるか
田久保忠衛
杏林大学客員教授
福田康夫首相が5月22日に第14回国際交流会議の晩餐会で行った演説『アジアの未来』を読んだ。1977年に父の福田赳夫首相がアジア・太平洋諸国との関係強化をうたった「福田ドクトリン」を発表したので、31年経ったいま、今後30年先をにらんだ「新しい福田ドクトリン」を打ち出そうとしたのだろう。日本外交が長期的視点を持つことが少なく、とかく当面の面倒な問題をいかに解決するかに仕事のほとんどが割かれていると観察してきただけに、30年後の太平洋を「内海」と見て、協力できる目ぼしい項目を挙げた考え方は評価できる。
戦後の日米外交の寄って立つ基盤が日米同盟であることは、いまさら述べるまでもない。が、アジア外交重視に踏み込むときにわれわれに迫ってくる選択は、歴史的にも「日本はアジアの一員である」か、あるいは「脱亜入欧をはかるべき」か、の選択であろう。日米同盟を「アジア・太平洋の公共財」と位置づけた首相は、これに持論の「アジア外交の共鳴(シナージー)」を結んだ。「シナージー」が正確には何を意味するか定かではないが、日米同盟をアジア・太平洋の平和と安定のしんばり棒にする程度の意味は持つのかもしれない。気になるのは中国をどう考えるか、の一点だ。
キッシンジャー元米大統領補佐官は、最近書いた文章の中で「国際政治の重心が、中国を中心とするアジアに移りつつある」と述べ、今世紀中に中国、インド、日本、「おそらく」インドネシアの4カ国が主要なプレーヤーになるだろうと見通している。そこで、「最も重要なのは、米国と中国がどのような関係になるかによってこの地域の国際秩序が変わってくる、ということだ」という意味の見方を披露している。福田首相は演説の中で、アジア防災・防疫ネットワークの構築、知的・世代的交流、気候変動との闘いなどに言及しており、すべて結構だが、それらの前提として、日中関係は良好に推移するものと決めてかかっている。
5月13日付けの米『ウォールストリート・ジャーナル』紙の評論欄で、米クレアモント研究所のマーク・ヘルプリン上級研究員が「大地震による中国の犠牲者に対して心は痛むが、中国が毎日強国になっていくという事実から目を外すわけにはいかない」とズバリ述べている。40年近くにわたって何故中国は2桁台の軍事費増を続けているのか。実際には、この2~3倍の金額だと、米当局も、ロンドンの国際戦略研究所(IISS)も、公に分析しているが、これに対するはっきりした反論はない。日本の領土である尖閣諸島を、国内法でいきなり自国領だなどと宣言する国が、ほかにあるだろうか。南シナ海のガス田開発をめぐって日中双方のやり取りが行われているが、公平な解決を中国は認めるのだろうか、といった日本国民の多くが抱いている疑問に、答えようとしていない。中国は、毒入りギョウザ事件では、謝罪するどころか、日本側に罪があるような発表を強引にしている。
福田首相はこのところに目をつぶって、摩擦がないか、最も少ない部門での協力を呼びかけている。これでは説得力が弱くなっても当然だろう。
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