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2008-05-26 00:00
自民党長老らに広がる危機感
杉浦正章
政治評論家
自民党長老らが一斉に後期高齢者医療制度に反対する発言を繰り返している。元首相・中曽根康弘にいたっては、即時撤廃論を展開した上に、首相・福田康夫を無能扱いする発言までしている。政府・与党の政策に長老らがここまで反対表明をする背景には、自民政権維持への強い危機感が存在するようだ。同じ長老でも、民主党長老の渡部恒三は楽だ。「命をかけて後期高齢者医療制度を廃止します」と言い続けるだけで、支持率が高まるのだから。渡部はじつにうまいけんかをする。一方、自民党長老らは深刻だ。中曽根康弘、塩川正十郎、野中広務、堀内光雄らが一斉に撤廃論や凍結論を展開している。中曽根は民放テレビ番組で後期高齢者医療制度について「冷たい機械的な印象だ。愛情の抜けたやり方だ。至急元に戻して新しく考え直す姿勢を取る必要がある」と撤廃論を展開した。
福田の対応ぶりについては「首相は自ら発想して国民に訴えるやり方でなければならない。役人の言っていることにそのまま乗ってやっているのも、能なしの感がする。その指導力について国民は、福田君に不満を感じている」と言い切った。一国の首相を元首相が“無能”とこき下ろし、公言した例をわたしは知らない。中曽根は卒寿にいたってようやく不動の大局観を身につけた感じである。塩川が「昔の政治をすべて了とする気はないが、今の政治は四角四面そのものだ」と述べれば、野中は「政治に心がない」と嘆く。堀内も「国が率先して“うば捨て山”を作ったかのような印象だ」と述べる。感情論であるだけに根が深い。
背景には、福田への支持率が20%を切って下がり続け、自民党支持と民主党支持が逆転している世論調査もあることに対する危機感がある。長年政局の渦の中に身を置いた長老らには、政治家の一言でその力量が分かる。福田の発言を聴いていれば、力量は分かるのである。また政局の渦中にいたときよりも、政治の展開が読めるのである。長老らの発言には、福田に対する“じれったさ“が共通して存在する。最近も制度撤廃論に対して、福田は「若い人たちはこれで良いのだろうか」との発言を繰り返している。まるで老人とそれを支える世代にくさびを打ち込もうとしているようだが、これもピントが狂っている。息子たちの多くは「じいちゃんがかわいそうだ」なのである。
長老らは功成り名を遂げた人物ばかりであり、新医療制度が自分に対して深刻に降りかかってくるわけではない。厚労省課長補佐・土佐和男の高齢者をないがしろにした一連の発言が象徴する、官僚主導の高齢者“囲い込み”新制度が、直感的、感情的に日本では成り立たないと感じているのである。土佐発言の最大の欠陥は、健康な老人も敵に回していることだ。健康で医者にもかからず、一生保険料を払い続け、その結果“国家の裏切り”にあったという抜きがたい不満だ。長老らの発言の共通項は、民主党政権を実現させるわけにはいかない、と言うところにある。しかし、その懸念とは裏腹に、政府・与党の流れは、現行制度維持にある。喜ぶのは民主党長老だけである。
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