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2008-06-12 00:00
感情論で分断・対立する日本人
鈴木智弘
信州大学経営大学院教授
既に旧聞となるが、北京五輪の聖火リレーは、筆者の勤務先(信州大学)の前を通過し、中国国旗を広げた夥しい数の中国人留学生で沿道が埋め尽くされた。聖火リレーは、ナチス・ドイツのベルリン・オリンピックが発祥であり(ナチスは聖火リレーの準備として、ルート途上の各国の道路事情を綿密に調査したが、これは第二次世界大戦の侵攻ルート調査であったという説もある)、国威を諸外国にデモンストレーションすることを目的としているが、この聖火リレーを通じて、いかに多数の中国人が世界中に居住し、活動しているのかを見せつけられた。また、四川大地震の映像を見ても、有史以来バラバラであった「中国」が、ナショナリズムで一本化しつつあるように感じられる。広大な国土が地域、民族毎にバラバラであるからこそ、統一の横糸として共産党や共産党の軍隊である人民解放軍が存在し、この両者は、中国を日本や欧米列強の侵略者から解放したことが、その支配の正統性となっている。しかし、このような仕組みを超えて、中国にナショナリズムが進行し、一本化の道を歩みつつあるように思える。
一方、年金問題、健康保険問題などの騒ぎを見ると、わが国は、世代間、家族形態、居住地などによって、国民の間に分裂と対立を激化させているように思える。筆者は、十年以上前、数名の研究者グループで将来の人口減少に備えて、20歳以上の学生から国民年金を徴収するのであれば、サラリーマンの扶養家族となっている専業主婦や高齢者からも年金や社会保険料を徴収すべきである、と言う提言をまとめ、与野党の政治家などに提案した。しかし「それでは選挙に勝てない」という反応ばかりで黙殺された。上記の提言に異論はあることは承知している。厚生年金加入者と国民年金加入者の違いについても多くの報道がなされている。しかし、同じサラリーマンで、同じ仕事をしていても、扶養家族の有無によって、手当や税額控除によって手取り収入が大きく異なるだけでなく、独身サラリーマンは、扶養家族を持つサラリーマンの妻子の分も、年金や社会保険料を負担していることになる。家族のあり方が変化する中で、従来の価値観が前提となり、その場しのぎの感情論が支配している。また、後期高齢者医療制度の議論も、各政党の選挙向けの思惑やマスコミの感情的な扇動が支配している。
学校教育の重要な目的は、論理的、合理的な思考力を身につけることにあるはずだ。特に、情緒的、感情的な言動に陥りやすい日本人は、欧米人以上に論理的な教育を受けなければならない。しかし、学校の実態は、一部のモンスター・ペアレントや杓子定規で自己責任を回避するばかりの教育委員会などのため、教師が萎縮している。また、セクハラ、パワハラが必要以上に強調されるため、大学では、自己防衛のため、教員の多くが、コンパや合宿などの授業以外での学生との付き合いを避けたり、学生のレポートなどに不十分な点があっても、意識的に見逃し、卒業させてしまう傾向が出てきている。このような文科省管轄の「教育」に社会は不満を持ち、経済産業者や金融庁などの中央官庁あるいは経済団体が独自に「人材養成」に取り組むようになってきた。このままでは、従来の「学校」は過去の遺物となるかもしれない。
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