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2008-07-18 00:00
米政権交代待ちの核軍縮をめぐる諸課題
堂之脇光朗
日本紛争予防センター理事長
アメリカの共和党のマッケーン大統領候補が5月27日の演説でCTBT(包括的核実験禁止条約)批准問題の見直しもあり得ると言明したことから、オバマ氏、マッケーン氏のどちらが大統領となっても、核軍縮は多少の活気を取り戻す見通しとなってきた。加えて、いくつかの核軍縮に関連した国際案件がアメリカの大統領選挙と連動している。
第一は、朝鮮半島の非核化問題である。6月27日に米政府は北朝鮮のテロ支援国指定解除と対敵取引法適用免除の手続きを開始したと発表したが、ブッシュ政権としては任期終了前に北朝鮮の核放棄を達成したいところであろう。しかし、洞爺湖サミットでブッシュ大統領が福田総理に述べたように、まずは北による核計画の申告が厳密に検証されることが前提となる。この第二段階の諸措置が完了すれば、核兵器の完全な放棄などの第三段階となる。もちろん、北の完全な核放棄が最大の目標ではあるが、2005年9月の六カ国合意は全体が一つのパッケージであり、拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はありえず、合意全体の履行もありえない。今後数ヶ月間ですべてを達成することは難しく、結局はアメリカの次期政権待ちとなり、北による時間稼ぎが奏功しただけに終わる可能性が大である。
第二は、イランの核問題である。イランによるウラン濃縮活動があと1年も続けば核兵器保有も可能となることから、イスラエル国内では、これを阻止するためには核施設への先制攻撃しかなく、そのタイミングはアメリカの大統領後継候補者が誰も頼りにできないので、ブッシュ政権の在任中以外にない、との論議が強まっている。さらに、米国を味方とするには大統領選挙の前と後でどちらが有利かも論議されているとのことで、イスラエルにはイラク、シリヤへの先制攻撃の「前歴」があるだけに、大いに心配すべき状況である。
第三は、民生用原子力協力に関する米印交渉である。2007年7月に米印間で合意された協力協定が米議会で承認されるためには、インドとIAEAの間で特別の保障措置協定を締結して、IAEA理事会の承認をえる必要があり、さらにNSG(原子力供給国グループ)45カ国のコンセンサスによる例外化の承認が前提となっている。ところが、大詰めを迎えているIAEAとの交渉について、インドの左派諸党が「国民的討議なしに決着させるのであれば、連立与党から離脱する」として、政局は危機を迎えているようである。洞爺湖サミットでのブッシュ大統領とマンモハン・シン首相との会談では、交渉妥結への決意を確認し合ったとのことであるが、NSG年次総会はすでに5月にベルリンで開催済みであり、米議会も今年は大統領選挙で早めに夏休み入りをすることから、時間切れの様相が強まっている。
二大政党制のアメリカでの4年ごと、或いは8年ごとの政権交代では行政府の上層部人事も大幅入れ替えとなり、政治の停滞と多大な時間とエネルギーの損失が避けられないのだが、その反面、時計の振子のように行き過ぎを是正し、立ち止まって見直しを行う貴重な機会でもある。少なくとも核軍縮政策に関してはそのような好機の訪れとなる。核軍縮はアメリカだけでなく国際社会全体の問題で、核兵器使用の可能性がかぎりなくゼロに近い世界の実現が大多数の人々の願いでもある。新しい決意のもとに各国の実務者、有識者など幅広い人々の叡智を結集して上記の諸問題の抜本的解決をめざす好機でもあろう。
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