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2008-08-28 00:00
「新冷戦期」の到来は「不戦時代」の一形態である
伊藤 憲一
日本国際フォーラム理事長
ロシアのメドヴェージェフ大統領がグルジア領である南オセチアとアブハジアの独立を承認したとの第一報を聞いたとき、私はあの2001年9月11日の同時多発テロ事件勃発の第一報を聞いたときに感じたような、「これは大変なことになるぞ」という予感を感じた。取り返しのつかない道に世界がのめり込んで行くとの予感でもあった。拙著『新・戦争論』で「不戦時代の到来」を説いてきた私に対しては、いま「この事態をどう理解すべきか」との問い合わせが殺到している。そこで、私の予感と理解をここで一言しておきたい。
「世界は冷戦期に逆戻りするのか」と聞かれれば、私は「たぶん」と答えたい。「それでは、不戦時代は到来しなかったことにならないか」と聞かれれば、「まさに、これが不戦時代なのだ」と答えたい。
不戦時代であればこそ、ロシアのグルジア侵攻とその結果としての国境線の一方的変更に対して、米国は軍事力による対抗措置を発動できないのである。ロシアは、それを見通したうえで、計算し尽くされた作戦計画を発動し、南オセチアとアブハジアを実質的に併合しただけでなく、さらにグルジアを半占領下の状態においた。しかも、それらの作戦は「平和維持活動」という不戦時代において許される武力行使の美名を借用した作戦でさえあった。ここまでの短期的展開を見る限りでは、ロシア側の完勝、米国、グルジア側の完敗と言えよう。
しかし、目を長期的展望に転ずるならば、この事件はロシアにとっての満州事変になるであろう。短期的には成功したが、その後日本は国際的に孤立し、最終的に世界を敵にして自滅する道をたどった。ロシアは、短期的には成功したが、長期的には世界のなかで孤立することにより、ソ連という国がたどったと同じような崩壊の道を歩み始めることになるであろう。今回の事件でロシアは、「新生ロシア」の名のもとに築いてきたすべての信用と信頼を失ったからである。
「新冷戦の到来を恐れない」というメドヴェージェフ大統領の言葉は、現ロシア指導部の無知と未熟を露呈している。世界経済における国際的相互依存の奥行きの広さと深さは史上空前のレベルに達している。すでにロシアのWTO加盟の道は閉ざされたし、G8においてももはやロシアの座る席はないであろう。もとより米欧などの西側諸国もこの相互依存の解体から損害を受けるであろうが、今回の事件は西側諸国にその覚悟をさせたという意味がある。「新冷戦」は不戦時代の一形態であり、そこでは「熱戦」がないままに、ロシアが測りしれない損害を受けて、自滅してゆくことになる。それが、私の予感と理解である。
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