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2008-09-02 00:00
伊藤和也さんを悼む:「テロとの戦い」と日本
角田勝彦
団体役員・元大使
8月26日のアフガニスタン東部におけるNGO「ペシャワール会」スタッフ、伊藤和也さんの拉致・殺害は、我々日本人に改めて「テロとの戦い」の厳しさを認識させた。御尊父の正之さんは悲しみをこらえ「和也は家族にとって誇り」と言われた由であるが、このような青年の存在は、日本人すべての誇りである。天皇・皇后両陛下もご両親とペシャワール会に弔意を伝えられた。伊藤さんは、5年前から、僻地で農業指導など各種支援活動に汗を流し、拉致時にはかれを慕う村人千人以上が捜索に参加し、現地の葬儀にも多数が参列したことが示すように、現地で強い信頼関係を築いていた。高い志と堅忍不抜の実行力を兼ね備えた有為の青年であり、不慮の死は残念でならない。ご遺族に心からお悔やみを申し上げる。
同時に犯人には、27日に福田総理も発言したように、「強い憤り」を感じざるを得ない。どんなにもっともらしい目的もテロ(とくに市民の無差別殺害行為)という手段を正当化しないが、テロリストは、無差別殺害行為によって政府側の強硬な対抗措置を誘発し、巻き添えにあう民衆の反政府感情を惹き起こすことを、戦術にしている。アフガンの反政府武装勢力「タリバン」は、掃討のための駐留外国軍兵(40か国の部隊の犠牲者は900人余)のみでなく、人道支援に努力する善意の民間人をも標的としている。外国人全部が敵視されている。従来、14.5億ドルの復興支援を行ってきた日本も、もちろん例外とされない。
国内で社会政策が充実しても「治安対策は不要」ということにはならないように、国際テロに対しても、現地復興支援だけでは対処できない。今回の事件について28日、「タリバン」のザビウッラー報道官は、拉致を命じた理由として、「ダム建設を中止させ、外国政府にアフガン政府と米国支援をやめるよう求めるつもりだった」と語り、また「我々は米や小麦、食用油など食糧支援は認めるが、道路や学校、ダムなど地形や文化を変える構造物は認めない」とし、地元住民に歓迎されてきたペシャワール会の復興支援事業そのものを否定した由である(毎日新聞)。
ペシャワール会は「伊藤君の遺志を継ぎ、しっぽをまいて逃げ出さない」として、現地のスタッフを中心に伊藤さんが従事していた農業支援などの事業を継続させるが、日本人は撤退させる方針と聞く。外務省は、昨年7月以降、アフガン全土に退避勧告を出しており、これまでのご努力を多としたい。しかし、これで、民主党が、昨年、政府の給油活動の対案として国会に提出した、アフガン本土での被災民支援(「銃をスコップに」「油より水を」)を軸とする、いわゆる「テロ根絶法案」の実現困難性も明らかになった。8月30日、カルザイ大統領はこの事件に哀悼の意を表するとともに、日本政府に対し、近く給油法の延長を要請する意向も示した由である。給油法は来年1月に期限切れになる。民主党が政局のために反対を続ける以上、3分の2の再可決確保のためには、公明党の支持が不可欠になる。その意味で公明党の真価が問われている。政局判断を優先せず、日本がテロとの戦いに退却せず臨む姿勢を確認すべきである。
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