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2008-09-17 00:00
日本外交に「その時」の備えはあるか
鍋嶋敬三
評論家
福田康夫首相の突然の退陣表明で日本外交は空白状態に陥った。自民党総裁選挙、新政権の発足後も衆院の早期解散、総選挙へと動いており、外交の停滞は避けられない。政権交代という激震に見舞われれば、外交政策も根本から見直しになる。与党も野党も総選挙に向けて内向きになり、日本の国益追求のために世界で何をなすべきかという視点を欠いている。このような政党の縮み体質こそ日本の国益にならない。来年1月には海上自衛隊のインド洋での給油活動のための新テロ対策特別措置法の期限が切れる。現状では与党の公明党が事実上の反対姿勢を変えない限り、衆院での延長の再可決は望めない。7月の首脳会談でブッシュ米大統領に給油継続を約束した福田首相の退陣の引き金にもなった。国の基本である安全保障政策が食い違うのでは、連立政権の意義が根本から問われる。
日本が「ねじれ国会」で身動きが取れない間に世界情勢は急激に変化している。ロシアのグルジア侵攻を巡る米ロの「新冷戦」、タリバンの攻勢で混迷が深まるアフガニスタン情勢と米軍の増派決定、米印原子力協定による核不拡散体制の揺らぎ、北朝鮮の金正日総書記の重病説、大陸間弾道ミサイルの発射基地の完成情報など、日本の安全保障に大きな影響を与える事態がめまぐるしく展開している。米国の金融不安に端を発する国際経済の混乱は、日本経済そして国民生活に不安を与えている。個々の事象の背景にある変化の底流を見定めていないと、「その時歴史が動いた」日が突然やってくる。1971年のニクソン米大統領による訪中発表、金・ドル交換停止などのドル防衛策という二つの「ニクソン・ショック」は、その典型であった。
首相の最大の責務は、国の領域を保全し、日本の国益を推進することである。日米同盟関係の軸である安保条約は、1960年改定以来50年近くを経過した。この間、日本の安全は米国の核抑止力に依存してきたが、そのことを「当然のこと」として空気のように意識せずにきたのではないか。同盟関係は一方通行ではない。日本が同盟のコストを払わず、米国にとってのメリットがなくなれば、条約はただの紙くずでしかない。アフガン支援のための給油活動について、民主党のペロシ下院議長が河野洋平衆院議長に対して、共和党も含めた米国全体の認識として評価、継続を強く求めた。給油継続は、来年1月発足する米新政権が日本の同盟維持の意思の固さを測るリトマス試験紙になる。
日本の国益を支えるのは、軍事的な協力ばかりではない。日本が国力に応じた貢献をしているかどうかは、国際社会が日本を評価する尺度になる。平和維持活動、地球温暖化対策、世界貿易機関(WTO)など各国の利害が激しくぶつかり合う多国間交渉で、世界が納得するような主張を日本が行い、行動で責任を果たしているかが問われる。世界的な利害調整のために日本国内の犠牲を求めることも必要で、大きな国益の観点から国内を説得する指導力が不可欠である。このような論議が政局の主導権争いに明け暮れる政治家には「馬の耳に念仏」だとすれば、日本の将来は暗い。
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