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2008-10-08 00:00
ジレンマの米「核不拡散」戦略
鍋嶋敬三
評論家
米国は核戦力を同盟関係の維持とともに核不拡散のため不可欠なものととらえている。しかし、米印原子力協定による核拡散防止条約(NPT)体制の空洞化、テロリスト・グループへの核拡散の危険が高まり、米国の核不拡散戦略はジレンマに陥っている。国防総省とエネルギー省が9月にまとめた「21世紀における国家安全保障と核兵器」報告は「米国の核戦力は北大西洋条約機構(NATO)、日本、韓国、オーストラリアとの同盟関係で鍵となる要素であり続ける」と述べた。高度な通常兵器もミサイル防衛も抑止力を強化する。だが、非核兵器とは比べものにならない破壊力を持つ核兵器の特性から「脅威を抑止する能力は究極的には核戦力にある」と断定している。
「核の傘」がなければ「いくつかの非核の同盟国は核開発・配備の必要性を認めるようになるかもしれない」と分析し、これら諸国の核武装への誘惑を封じ込めるためにも、米国の核戦力が「不拡散政策に欠かせない手段」と位置付けている。「2008年国防戦略」で米国はイランや北朝鮮のような「ならず者国家」が米国への脅威であり、核武装した敵対国家を打ち負かす能力の必要性を強調した。さらに、核保有国の数はまだ少ないが、核不拡散のための協調行動がなければ「次の十年間にその数は増えるだろう」と予測した。核拡散は避けられない流れと踏んでいるようである。
前記の「核兵器」報告は中国とロシアの核戦力の近代化に懸念を深めている。軍事的に米国と競合する最大の能力を持つと指摘された中国の「戦略能力の向上はアジア太平洋地域を超えた意味合いを持つようになった」と位置付けた。そしてNPT体制内の5核保有国のうち「核兵器の規模を拡大させている唯一の国」として、量的にも質的にも核戦力の近代化を推進する中国に警戒感を強めている。ロシアも石油、天然ガスの収入拡大を背景に戦略核戦力の近代化を続けている上、西側への対抗姿勢を強めるメドベージェフ・プーチン体制下のロシアの行方がきわめて不透明だと懸念を表明した。さらに、核戦力を重視するインド、パキスタンの動き、イランや北朝鮮の核計画、カーン博士の闇の核ネットワークに代表される核物質や技術の拡散などを挙げて、「米国はこのような動きを無視することはできない」と強調した。
しかし、米国自身がインドとの原子力協定によってNPT体制を揺るがしたのではないか。早くもパキスタンは同様の協定を米国に要求し始めた。北朝鮮やイランが核武装しても原子力利用の協力を受けられると考えても、不思議はない。米国は「核に勝る抑止力はない」と考えているが、北朝鮮などによる核開発の動機はその裏返しの「米国に対抗するには核保有しかない」というものだ。米国の核抑止戦略が「ならず者国家」や21世紀の最大の脅威としている国境を超えるテロリスト・ネットワークに対して果たして有効かどうか、核不拡散戦略はジレンマから抜け出せないでいる。
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