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2008-10-28 00:00
温暖化ガスの排出権取引実施は慎重に
角田 勝彦
団体役員・元大使
18年ぶりに来日されたチャールズ英皇太子は、10月28日放映のTVインタビューで「経済危機の陰に隠れているが、地球環境問題はもっと重要である」旨述べられた。9月の欧州連合(EU)の約3万人の欧州市民を対象とした「世界が直面する深刻な問題」を訊く世論調査で、「温暖化・気候変動」が62%と食料・水不足の68%に次いで多く、国際テロ(53%)や世界経済の減速(24%)を大幅に上回っていたが、その後の金融危機のいっそうの深化にもかかわらず、これを裏付ける発言である。なお、6月の読売新聞社の年間連続調査「日本人」でも、将来の地球環境に不安を感じている人が「大いに」「多少は」を合わせて93%に達していた。
現在の金融危機のなか緊急経済対策と地球環境対策のいずれを先行させるべきかには多少の議論もあろうが、7月末「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定され、10月21日にはその一環として排出量取引の国内統合市場の試行的実施も始まった。これは7月の北海道洞爺湖サミットを前に、国内排出量取引制度の導入に反対していた新日本製鉄や東京電力など鉄鋼・電力の大手が条件付きで受け入れる姿勢に転じ、サミット議長(福田総理)総括で、排出量取引について、国家間だけでなく、国内でも「排出量削減を実現することに役立つ」旨明記し、日本での本格的導入を事実上表明した形となったことによるものである。
しかし、排出量取引には、排出できる温暖化ガスの上限の恣意的規制という問題のほか、今回の金融危機で明らかになったように、正常な金融取引がインチキ・マネーゲームとなる危険性が隠れている。2007年世界の温暖化ガスの排出権取引は急拡大した。2007年の世界の取引総額は404億ユーロ(6兆3000億円)と前年に比べ80%増えた。グローバル企業が排出権購入を増やしていることが背景にある。調査会社ポイントカーボンによると、欧州域内での排出権取引額は280億ユーロと前年の1.5倍に増えた。EUが企業に対し、排出できる温暖化ガスの上限をいち早く設定したためである。金融機関が今後の成長事業と位置づけて売買を増やしており、取引所経由に加え、相対での取引も盛り上がっている。
ニュージーランドも、欧州に次ぎ、この9月、排出枠を売買しながら削減を進める排出量取引制度を09年から数年間かけて段階的に導入する法案を可決した。ただし同国では温室効果ガス排出量の約5割が農業分野からで、中でも牛や羊のげっぷから出るメタンが大きな割合を占める。こうしたガスをめぐっては排出量算定が難しく、軽減法も確立していないため、農家からは制度への懸念の声が出ているそうである。
国内面はともあれ、国際面では排出権算定の問題は難しい。京都議定書は参加国に対し、排出量の集計制度を完備した上で、毎年の排出量を事務局に報告するよう義務付けているが、違反もある。たとえば本年4月、ギリシャは、温室効果ガス排出量の記録システムを整備しなかったとして、京都議定書に基づく他国との排出量取引制度に参加する資格を停止された。個々のケースはともかく、排出権取引自体、架空のものを含み、のちに信用不安をもたらす金融取引になりかねない。今後の対応には慎重さを必要としよう。
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