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2008-11-24 00:00
ヒラリー新国務長官への期待と懸念
山田 禎介
ジャーナリスト
アメリカのオバマ次期新政権で国務長官候補と注目されているヒラリー・クリントン上院議員が、このポストを受諾するようだ。実現すれば、オルブライト、ライスに続く女性国務長官になるが、ヒラリー上院議員の場合は、前ファーストレディー、またオバマ次期大統領とは民主党候補指名を争ったライバルである。その形を変えた再登場は波紋を呼びそうだ。ヒラリー国務長官誕生は、その世界的知名度から「アメリカ外交の顔」となる。また、ホワイトハウスの補佐官主導で長らく地位低下が指摘されてきた国務省にも、復権の期待が高まろう。一方でこの先、ヒラリー氏の持ち前の勝気さが、オバマ次期大統領との衝突を生む懸念も考えられる。国務長官正式決定まで足踏み状態が続くのは、夫である前大統領のこれまでの「私的外交活動」という障害に加え、次期大統領と外交権限、条件についてある種の“取り決め”が続いているからと思われる。
アメリカ外交の顔、国務長官の地位回復は歴史的悲願でもある。第2次大戦後のマーシャル、アチソン、ダレスという3代の大物国務長官は、国際政治でも舵取り役を務め、歴史と大規模施設に名を刻んでいる。だが近年の国務長官は、ホワイトハウスの「国家安全保障担当大統領補佐官」の権限の前にかすんできていた。とりわけ大物大統領補佐官キッシンジャーはベトナム和平や米中国交回復にこぎつけ、他方のブレジンスキーも冷戦体制崩壊実現への黒子役を演じた。大統領補佐官から国務長官に横すべりしたのも、キッシンジャーと対ロシア政策の権威ライス女史の例がある。だが歴代、単独の国務長官の役割と印象は薄い。オバマ次期大統領は、シカゴ政界での仲間、エマニュエル下院議員を政権のかなめとなる大統領首席補佐官に任命したが、国家安全保障担当補佐官はまだ模索中。だが総じて現代補佐官連には、もはやキッシンジャー、ブレジンスキー時代は神話。伝説ともなった大物補佐官の隠密外交は、IT時代の現代には通用するはずもない。新国務長官としてのヒラリー氏が、その十分な経験と才能で、国務省の地位回復をはかることは可能だろう。
だがその一方、十分な経験と才能があるヒラリー氏がオバマ政権内で「諸刃の剣」ともなり得る。大統領選挙(11月4日)に先立つ10月、東部ペンシルベニア州スクラントンで興味深い光景が見られたという。当時の民主党副大統領候補バイデン上院議員の集会だったが、そこに姿を見せたのがクリントン前大統領夫妻だが、もちろんフットライトはヒラリー上院議員の方に集中した。バイデン副大統領候補は演説後、左右にヒラリー上院議員、バイデン夫人の手を取って聴衆の歓呼に応えた。先立つペンシルベニア民主党候補指名で、ヒラリー上院議員はオバマ氏に勝利しているが、この東部工業地帯のペンシルベニアこそ、英ウェールズ系の(ヒラリー)ローダム・ファミリーの新大陸でのルーツがある。ヒラリー上院議員の父ヒュー・ローダム氏の出身地はこのスクラントンだった。「パパはハリウッドスターよりハンサム。高笑いのクセもパパ譲り」と、いささか“ファザコン”歴のヒラリー上院議員は父親にならって最初は共和党員でもあった。
交通の要地で工業都市のスクラントンを含む東部アパラチア広域は、伝統的に白人庶民階級の人口が多い。ヒラリー上院議員の実家のローダム家もまさにその一つ。だがオバマ次期大統領が、副大統領候補に選んだのも、このスクラントン生まれのバイデン上院議員。同じく白人庶民階級の出だ。白人庶民階級のシンボリックな土地柄であるスクラントンで当時、並び立った次期副大統領候補と野望を隠さぬヒラリー上院議員の前途には、ある種の緊張と不安がみえなくもなかったはず。副大統領は平時には名ばかりでも、有事の際、また有力な次期大統領候補にもなり得る。ヒラリー上院議員が国務長官として、同郷のライバルとなるバイデン副大統領との共存に耐え得るだろうか。国務長官就任で、ヒラリー上院議員の大統領選再出馬への道はまた遠のくのだ。
また民主、共和の2大政党にも人的グレーゾーンがある。お気づきだろうか、大統領選で共和党マケイン候補の敗北宣言まで、数多くの見せ場でマケイン夫人とともに必ず隣に姿を見せていたのが、リーバーマン上院議員。なんと2000年大統領選挙では民主党のゴア候補とコンビの副大統領候補だった人物だ。アメリカ政界では人的関係が党派を超えることもある。オバマ次期政権で逆のケース、共和党派が登用されてもおかしくはない。また敗北といえば、大統領選と同時に行われた上院改選ではかつてヒラリー上院議員と対比された共和党の大物、ドール女史も落選、民主党の女性新人にその座を明け渡した。明らかに世代交代が進んでいる。オバマ次期大統領がヒラリー国務長官を望むのは、候補指名争いでのシコリをこれにより解消させ、民主党大同団結の姿を世界に示すねらいがあるとも思われるが、新たな火種を抱え込むようにみえなくもない。首都ワシントン隣接バージニア州予備選である男性が、「ヒラリーもいいが、彼女はなにかとトラブルを起こしそうだ」とテレビに語ったのを思い出す。
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