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2008-11-27 00:00
“TV戯作”の架空現実に騙されるな
山田 禎介
ジャーナリスト
はるか昔は映画で忠臣蔵、そして現代はテレビでと、年末が近づくと、恒例の近世、近代歴史出し物で、それなりににぎやか。忠臣蔵は誰もが「完全なお芝居」だと分かっているからいいが、テレビ“戯作”での近代歴史ものを見て、果たしてこれは本当だろうかと疑問を抱く人はまだまし、正常な神経だ。ドキュメンタリー風に描かれた映像の架空現実にすっかり呑まれ、脳内細胞で事実と誤認する人も出てくるのではとの心配も起こる。往時を生き抜いた「歴史の証人」が、一人二人と欠けていくたびに、このようなドラマが生まれているような様子が、今の状況だから、なおさらだ。
清朝の血を引く皇女で日本名、川島芳子、「東洋のマタハリ」とはやされた女性の物語が放映されるようだし、昨年までブームだった「マッカーサーを叱った男」という、日本人にはまさに胸のすく形容が売りの白洲次郎の話が、新年テレビ番組に登場するようだ。吉田茂の側近、白洲のこの“叱責”エピソードが果たしてテレビで登場するのかどうかは知らないが、最近“叱責”を否定する話も現れたようで、それはもっともだと思う。マッカーサー元帥は第2次大戦の日本占領で他の連合国、英仏ソ中を超える超権力を持つ連合軍最高司令官(SCAP)。その座は、当時唯一の核保有国であるアメリカのトルーマン大統領から与えられた。それも今ははるかな古事か。最近は「マッカーサーGHQ総司令官」なる表記も目に付くが、GHQとはそのマッカーサーの下の総司令部のこと。昭和天皇の命運もマッカーサーの手に委ねられていた。マッカーサーは誰もたてつくことができない存在であり、白洲の“叱責”エピソードなどあろうはずもない。
仮にある種の白洲の発言にマッカーサーが言葉をとめたとすれば、多分それは白洲が若い頃の英留学で身につけた英語の言い回し、つまり”ケンブリッジなまり”に、一瞬元帥が気をとられたという程度のことではないかと思う。なにしろ自伝(回想録)でも、スコットランド名家の末裔と誇らしげに記す、自意識過剰のマッカーサーのことである。終戦当時の庶民も、マッカーサーを昨日までの天皇を超えた存在に感じたようだ。陛下の写真を外して「マツカサ」(マッカーサーのこと)の写真を床の間に掲げよーと家族に命じたのは、旧海軍機関水兵のわが祖父だった。軍隊の階級、命令系統を水兵時代から骨の髄まで叩き込まれた本能からの発言だと思う。だが祖父もやがて、マッカーサーよりえらい“カミサマ”がまだいたことに気が付いたのかどうかは聞き忘れた。大統領の権限まで無視しかねない尊大さで、結局トルーマンに解任されたのがマッカーサーだ。
師走が迫ると、日米開戦のあの”パールハーバー”が浮上する。国際的には「卑怯な”ヤミ討ち”」となったこのぶざまな外交手違いにも、秘話めいた話が独り歩きしそうな気配がみえる。それは、この奇襲がアメリカへの宣戦布告をあえて遅らせた結果だという、まことしやかな話なのだ。東條政府が在ワシントン大使館にあえて密命を下し、汚名を浴びようとも耐えてアメリカを欺き、成功させたというのだ。汚名を着せられた大使館員たちは実は沈黙の英雄だという、いかにも日本好みの筋立て。忠義を尽くすという日本人の情感にささやき、“危険な誤解”を生み出しかねない独特の発想だ。まるで元禄歌舞伎から伝統の「本懐を遂げるまで小事は耐え忍ぶ」という、箱根の雲助に侮辱されても耐え忍んだ忠臣蔵の神崎与五郎スタイルにメンタルが回帰している。いかに表現の自由な日本とはいえ、よもやドラマ化などはないと思うが、これはまさに滑稽な戯作「真珠湾忠臣蔵」としかなり得ない。
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