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2008-12-07 00:00
山田禎介氏の対露政策転換の提案に異議あり
西村 洋治
団体役員
12月5日付け本欄への山田禎介氏の投稿「対露関係は、伝統的北方シベリア観から脱却を目指せ」には、異議があるので、以下にその理由を述べる。まず「伝統的北方シベリア観」なる言葉で山田氏が何を意味しているのかが不明だが、結論部分で「ロシアが歴史的に関心を寄せてきたのが、北海道、とくに函館なのだから、函館地域に『対露経済友好地』とでも呼ぶべきステータスを与え、ロシアとの特恵関係を築く案を提示し、引き換えに北方領土返還問題を持ち出す方策もと考える」と述べているので、ロシアを日本の安全保障に対する潜在的脅威としてつねに意識してきた、これまでの日本人の対露観を指しているようだ。それを180度転換し、ロシアを友好国として扱えば、北方領土問題も解決するだろう、との結論のようだ。
日本人がロシアに脅威を感ずるのは、幕末以来のロシアの対日領土圧力(1875年の南樺太と千島の交換自体がロシアの領土圧力であった)やその後の日露戦争そして1945年の日ソ中立条約を無視した対日参戦によるものであって、今日もなお続いている北方領土の不法占拠もその重要な根拠となっていることは言うまでもない。山田氏の立論の奇妙さは、これらの根源的史実にまったく触れることなく、「ウラジオストックの街を走る乗用車のほとんどすべてが中古日本車であるから」などという頓珍漢な理由で、「日本とロシアの問題解決へのソフトパワーのヒントがある」などと結論するところにある。
「ロシアという大領域国家は、ユーラシア大小の国家群と国境を接する“多角形”の国である。“多角形のロシア”にはその角ごとに領土問題を抱えており、単独に返還に応じる気配はありえない」と言って、“多角形のロシア”のあり方を無批判に肯定するところから議論を出発させているところに、山田氏の議論の最大の陥穽があるようだ。じつは、この“多角形のロシア”とは、15世紀末のモスクワ大公国の成立以来500年間にわたり近隣弱小諸国を次々と侵略し、その領土を奪って肥大化してきた産物なのであって、それを擁護し、肯定すべき理由などはどこにもあるはずがない。
ロシア人自身が己の大国主義や侵略主義を反省するところからしか、北方領土問題の解決がありえないことは、山田氏もその発言を評価している丹波実氏自身が述べていることである。「スターリン主義の残滓を清算しなければならない」と述べたエリツィン大統領のもとであったからこそ、東京宣言という四島返還への道筋がつけられたのであって、その後「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的悲劇」と公言するプーチン大統領が登場するにともない、すべては元の木阿弥になってしまったのだ。日本政府は「日露共同行動」などという人参(山田氏に言わせれば「ソフトパワー」)を差し出してみたが、そんなものはロシアに食い逃げされただけであった。ロシアを知らずして、ロシアを論ずるなかれ、と言わざるを得ない。
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