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2008-12-12 00:00
国際政治にも波及する国際金融危機の影響
坂本 正弘
日本戦略研究フォーラム副理事長
2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以降の国際金融不安の衝撃は「百年に一度」との評価だが、実体経済の急減速とともに、石油・一次産品価格の急落をもたらし、それは単に世界経済への影響というよりも、国際政治にも影響を与える規模のものである。為替レートの動きは各国の経済・政治情勢をかなり的確に反映する面がある。今回の金融危機の発信国である米国のドルが、円を除くほとんど全ての通貨に対し価値を高めていることは、矛盾ともいえるが、それだけ世界がドル体制に依存し、また実物取引でも最終的には米国の巨大な需要に依存していることを示しているといえよう。
まず、欧州は当初から、ドル不足に悩み、金融の打撃が大きいが、著しい成長低下の中、ユーロは減価し、その役割は限定的だった。また、石油収入を背景に、再び大国の国威を顕示し始めたロシアも、石油収入の低下とルーブルの急落に国力を削がれている。また、ブラジル・インドなどの新興国の経済成長が先進国の低迷を代替するというデカップリング論も大きく後退している。中東産油国の希望の都市・ドバイの高層建築ブームも急激に凋んでいる。被害が少ないと思われたアジアも例外ではなく、韓国は流動性危機に見舞われ、シンガポール・ドルも大きく低下し、オーストラリア・ドルも急落である。
国際金融不安は逆風であるが、これを機会として、活用した政治家があるのも確かである。米大統領選で、金融不安はマッケイン候補には強い逆風だったが、オバマ候補はこれを順風として活用した。バーナンキ連邦準備制度議長は、国内の金融危機に果敢に対応しているが、SWAP取引を通じて各国中央銀行に巨額ドルを供給し、連邦準備制度の地位は高まっている。欧州の被害は大きいが、英国のブラウン首相は公的資金の投入などの危機対策での主導性を発揮し、それまでの不人気を大きく転換した。サルコジ大統領も危機に強い大統領として評価され、離婚・再婚などにまつわる傷を償った。韓国の李大統領も急落した人気を回復しつつある。逆に、麻生首相は、これまでのところ、この危機を機会に変えてはいない。
注目は中国の動向であるが、厳重な為替管理で元は動いていない。しかし、頼みの輸出が不振で、現在の経済成長は雇用吸収に必要とされる8%を切っていると思われる。中国は4兆元を超える内需振興策を打ち出さざるを得なくなったが、地方政府が資金獲得のため、その数倍の計画を出しているという。一つのシナリオは地価再高騰の成長だが、胡錦濤政権の指導理念である格差是正のための「和諧社会」や環境重視の「科学的発展」は今回の措置で全面修正を迫られる可能性が大きい。他方、農民の暴動や失業など社会不満の高まりに、いかに共産党はその正当性を保持するか、今後の中国情勢は目が離せない状況である。
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