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2008-12-17 00:00
手玉にとられた米の対北朝鮮外交
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の首席代表会合は、核の検証手続きで対立が解けず、12月11日成果なく終わった。イラク、アフガニスタン戦争で、身動きが取れないブッシュ政権が、唯一残された外交的成果を挙げてオバマ次期政権に引き継ごうとした試みも頓挫した。「レームダック(死に体)」化したブッシュ政権の限界を示したものだ。米国の足元を見透かして10月にテロ支援国家指定の解除をまんまと手中にした北朝鮮の外交的勝利だ。ブッシュ政権の対北朝鮮外交は一貫性を欠いた。当初、北朝鮮を「悪の枢軸」呼ばわりしていたブッシュ大統領は、昨年末に訪朝したヒル国務次官補に金正日総書記あての親書を託すまで豹変した。
米政権内の対北朝鮮政策は、強硬派とライス国務長官らの現実派の対立の中で揺れ動いたが、結局は妥協を重ねたあげく、核を放棄させるという政権としての目標は幻となった。北朝鮮にとっては金正日体制の維持が最高の目標であり、そのためになくてはならないのが「核」である。核武装は金日成時代からひそかに追求してきた野望であった。6カ国協議で「すべての核計画の完全で正確な申告」で合意(2007年10月)したにもかかわらず、肝心の核兵器や高濃縮ウラン計画、核拡散問題、試料の採取などは合意していない、と北朝鮮が主張し、交渉は中断を繰り返してきた。「決して核を手放さない」という北朝鮮の決意が背景にある。
「北朝鮮は小型核弾頭を開発中」と韓国軍の合同参謀本部長が国会で答弁している。日本を射程に入れたノドン・ミサイルの精度向上と合わせ、日本の安全保障にとっての脅威は高まるばかりである。日朝関係では、拉致問題で8月に合意した調査委員会の調査についても、北朝鮮は「新政権の立場を見極める」と称して動かない。9月に発足した麻生太郎内閣への世論の支持率はこの2ヶ月間に急落した。不支持率が支持率の3倍近いという数字は、森喜朗内閣の退陣2ヶ月前と同様の異常な不人気で、「政権末期」の様相だ。自民党内部から政界再編のうごめきが表面化するほど、レームダック化が進んでいる。ぜい弱な政権基盤の麻生内閣では強力な対北朝鮮外交の推進はおぼつかない。北朝鮮も「次の内閣」をにらんで腰を上げないだろう。
米国との関係も微妙になってきた。テロ支援国家指定解除は、日本政府にとって「寝耳に水」で、日米間にミゾが生まれた。内閣府の世論調査で現在の日米関係を「良好と思わない」人が1998年の調査開始以来、最高の28.1%に上った。「良好」も僅か2年間で14ポイント近く下落、68.9%になったのは、テロ指定解除の影響だろう。オバマ次期大統領は指定解除を「適切」とコメントした。民主党クリントン政権下の「米朝枠組み合意」(1994年)は結局、北朝鮮の核実験につながった。同政権の要人が中枢に座るオバマ次期政権に対して、日本が国益を体して主張をぶつけ、綿密な政策調整をしないと、同盟関係の基盤である安全保障政策できしみが強まるだろう。それは日米離間を図る北朝鮮の思うつぼである。
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